本人そっくりのAI生成アカウントがSNSで発信を続け、DMでの個別のやり取りを経てLINEへ誘う投資サイトの「運営会社」欄が、海外の証券規制当局の名前だけで埋まっていた型を、警察庁・金融庁・国民生活センターの一次情報で調べた
本人そっくりのアカウントから、羨ましいくらい順調な近況が届く。旅先の写真、成果を語る短い動画、そして少しずつ増えていく個別のやり取り。特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、お金の流れで調べた。今号は、本人になりすましたアカウントがSNSで発信を続け、個別のやり取りを重ねたのちLINEへ誘い込む型を洗った。行き着いた投資サイトの「運営会社」欄が、社名でも住所でもなく、聞き慣れない海外の証券規制当局の名前だけで埋まっていた点が、もう一つの核である。今号はこの件を洗いました。(黒)
「本人らしさ」はどこから来るのか
本人そっくりに見えるアカウントには、本人の写真や発言をそのまま流用しているものもあれば、実物に似せて作られたとみられる画像・動画を使っているものもある――と私は見ている。技術の中身がどちらであっても、狙いは同じだ。見た人に「本人が発信している」と信じ込ませ、警戒心をゆるめること。
金融庁は「SNS(Facebook、Instagram等)上の偽アカウント・偽広告は著名人のアカウント・広告を装います」と注意を呼びかけている(金融庁「SNS・マッチングアプリ等で知り合った者や著名人を騙る者からの投資勧誘等にご注意ください」)。国民生活センターも「SNSをきっかけとして、著名人を名乗ったり、つながりを示したりして投資を勧誘されたという消費者トラブルが急増しています」とし、相談件数は2022年度と比べて約9.6倍に増えたと記している(国民生活センター・2024年)。確認できる範囲では、生成AIの技術そのものへの言及は一次情報には見当たらない。ただ、著名人になりすます手口自体は、公的機関が繰り返し注意を呼びかけている事実だと分かる。
発信は続き、DMは静かに始まる
投稿を眺めているだけでは終わらない。しばらくすると、こちらの近況に触れる短いDMが届く。世間話から始まり、数日から数週間かけて、少しずつ距離を縮めてくる。国民生活センターが扱った相談事例にも「SNSやマッチングアプリで知り合った相手に勧誘されて送金したが、出金できなくなった」という型が記録されている(国民生活センター「SNSやマッチングアプリ、友人・知人からの誘いをきっかけとした暗号資産のトラブル」(2022年))。急がず時間をかけてくる分、警戒が働きにくい。そこが狙いだと私は見ている。
「運営会社」欄を、空欄ではなく聞き慣れない海外の名前で埋める
以前の号で、運営会社欄が名前も住所も電話番号も空欄のままだった型を扱った。今回の型は、その裏返しに近い。欄そのものは埋まっている。ただし書かれているのは、日本の利用者が聞いたことのない海外の証券規制当局の名前だけで、住所も電話番号も、結局は出てこない。
空欄はそれ自体が疑わしく見える。だが、聞き慣れない海外の当局名が書いてあると、「どこかで登録されているらしい」という安心感だけが残ってしまう。中身を確かめる手立てがないのに、確かめた気になってしまう――ここが厄介なところだ。
金融庁は「海外所在業者であったとしても、日本の居住者のために又は日本の居住者を相手方として金融商品取引を業として行う場合は、金融商品取引業の登録……が必要です」としている(金融庁「無登録の海外所在業者による勧誘にご注意ください」)。つまり、どこかの海外当局に登録されているかどうかにかかわらず、日本の居住者を相手にするなら日本の登録が要る。この一点を確かめるだけで、聞き慣れない当局名の真偽を自分で調べる労力は要らなくなる。
聞き慣れない海外の当局名を掲げるのも、海外の有名銀行の名をかたって信用を作る型と、根は同じだと私は見ている。名乗る相手が銀行か当局かの違いだけで、借り物の権威で信用を後付けするという狙いは変わらない。
通信販売の分野で、消費者庁は「事業を行う上で、責任の所在を明らかにすることは不可欠です。このため法人であれ個人であれ氏名又は名称を表示することが必要です」としている(消費者庁「特定商取引法ガイド 通信販売広告Q&A」)。投資の勧誘サイトにこの規定がそのまま当てはまるわけではない。ただ、名乗り、連絡先を示すのが商いの最低限の作法だという考え方に照らせば、海外当局の名前だけで社名も連絡先も出てこない状態は、どう見ても不自然だと思う。
出金の場面で、型は同じ顔を見せる
入口の装いが著名人だろうと海外当局だろうと、出口――出金の場面――では、よく似た顔を見せる。国民生活センターの相談事例には「暗号資産の取引口座やアプリ上では利益が出ているように見えていても、出金しようとすると『手数料』『税金』『保証金』などの名目で請求される」というケースが記録されている(国民生活センター・2022年)。同じ資料の相談事例には「業者のアプリに運営業者情報は書かれていない。女性の連絡先は携帯電話番号と無料通話アプリのIDのみである」という一文もある。運営情報が最後まで確かめられない点は、今回の型とも重なる。
警察庁の集計では、SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は9,538件(前年同期比+3,125件)、被害額は1,274.7億円(同+403.6億円)に上るという(警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」)。個別の案件を追いかけるより、この型を知っておくほうが、次にどんな装いで来ても気づきやすい。で、その規制当局の名前は、誰が、どうやって確かめられるのか――私はそこを問い直したい。
巻き込まれないための、ゆるい行動ルール
気合いで見抜こうとすると疲れる。私は「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。一番効くのは、その場で決めないこと。「いったん持ち帰って調べます」を口ぐせにしてしまえば、それだけで大半は防げる。そのうえで、
- 運営会社欄に、社名・住所・電話番号が具体的に書かれているか確かめる
- 掲げられた海外当局の名前ではなく、金融庁の登録業者検索・無登録業者一覧を確認する
- 親身なDMのやり取りだけでは、相手の実在を確かめたことにはならないと意識しておく
- 出金の場面で手数料・税金名目の追加請求をされたら、その時点で止める。応じない
この記事のまとめ
- 本人そっくりのアカウントが個別のやり取りでLINEへ誘い、投資サイトの運営会社欄には社名の代わりに聞き慣れない海外当局の名前だけが書かれている型がある
- 海外当局への登録の有無にかかわらず、日本居住者を相手にするなら日本の登録が必要――というのが確かめられる一次情報
- 出金の直前に手数料・税金名目の追加請求が来るのは、この型に共通する核
対策は結局のところ、名乗りの立派さではなく、確かめられる事実で見る。それに尽きる。