「100円」から無料動画で信頼を重ね、利用料請求と借入れの勧誘へ至る型
「まずは100円から試してみませんか」。そう軽く誘う入口がある。実際に払うのは100円だけで、確かにそこまでは安い。ところが申し込んだ先では、無料の動画が何本かに分けて届き、それを見終えるころ、数十万円規模の「システム利用料」を求められる。支払いが難しいと伝えると、今度は消費者金融からの借入れまで持ちかけられる——そういう相談が、消費生活センターに寄せられている。
特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、この流れをお金の流れで調べた。今回洗ったのは、少額の決済を入口にして信頼を積み上げ、最後は高額な「システム利用料」の請求と借入れの斡旋につながる型である。
なぜ入口を「100円」にするのか
この型でまず目についたのは、入口が「無料」ではなく「100円」に設定されている点だ。無料にしてしまえば済む話を、なぜわざわざ100円だけ取るのか。
一つには、決済手段を先に確保しておく狙いがあると私は見ている。100円でもクレジットカードや決済アプリの情報を一度通しておけば、その後の請求はハードルが下がる。もう一つは、心理面の作用だ。無料の情報より、一度でも自分の金を払った情報のほうを、人は簡単には手放しにくい。少額とはいえ「払った」という事実そのものが、後戻りをわずかに重くする。
「無料ではなく少額を経由してから高額請求へ」という流れ自体は、今回はじめて見つかった型ではない。情報商材のトラブルが急増(国民生活センター・2018年)は、「近年みられる手口では、初めから高額契約を勧誘するのではなく、無料や少額の情報商材を販売してから高額契約を勧誘する事例があります」と指摘している。少額決済を入口にする型は、少なくとも2018年の時点ですでに把握されていたことになる。
同じ資料は相談件数の推移も示している。「2017年度の相談件数は6,593件と2013年度に比べ7倍超となり、2018年度も増加ペースが続いています」。この時点で、すでに右肩上がりの型だったわけだ。その後の推移を情報商材トラブルの相談件数(国民生活センター)で追うと、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)の統計では2022年度が7,000件超、2023年度が6,256件、2024年度が4,118件となっている。ピークからはやや下がっているが、消えてはいない。
では、100円という小さな入口から、なぜ数十万円という出口まで話が進むのか。金額の小ささだけを見ていても、その先は分からない。
型を、お金の流れで分解する
個別の案件名は伏せる。だが、寄せられた話を並べると、流れはおおむね同じ順序をたどる。順を追って見ていく。
入口:『100円』の少額決済と、複数回の無料動画
まず、『100円』という少額の決済が入口に置かれる。財布への負担はほとんどない。決済のあと、数回に分けて無料の動画が届く仕組みになっていることが多い。1本目は共感、2本目は実績らしきものの提示、3本目で核心へ近づく——回を重ねるごとに少しずつ踏み込む設計である。複数回に分けて無料動画を配信し、期待を積み上げてから高額請求に進める段取りは、当研究所が以前にも「段取り」で気持ちを温める勧誘の型として洗ったものと同じ構造だ。
こうした段階配信を指す言葉として「プロダクトローンチ」という呼び方があるが、この用語そのものへの公的機関の言及は、確認できる範囲では見当たらない。ただし、段階的な動画配信で信頼を積み上げていくという手口の実例は、相談事例として確認できる。同資料には、「儲かる仕事を求めて登録していたメールマガジンで紹介されたサイトに興味を持ち、メールアドレスの登録をすると、儲かる仕組みの説明動画が複数回メールで届いた」という相談が載っている。100円かどうかは案件によって違うだろうが、少額の入口から動画を重ねるという骨格は同じである。
申込:個人情報と『支払い能力』を尋ねられる
動画を見終えたころ、個別相談や申込みのフォームが用意される。そこで尋ねられるのは、仕事の中身より先に、年収・貯蓄・借入れの有無といった、いわば『支払い能力』の情報であることが多い。名目は「あなたに合ったプランを案内するため」といったものだが、聞かれている中身は、こちらがいくらまで払えるか、である。
この段階では、まだ金額は出てこない。出てくるのは質問だけだ。だが、答えた内容がそのまま、次の段階で提示される金額の材料になっている、と見ておいたほうがいい。
請求:システム利用料20万円前後、一括または分割
個別相談の場で、初めて具体的な金額が出る。「システム利用料」「サポート費」といった名目で、20万円前後という数字が提示され、一括か分割かを選ばされる。ここまで無料・少額で進んできた流れの中で、初めて大きな金額が姿を見せる瞬間である。
国民生活センターは、こうした構造について同資料で、「情報商材を購入した消費者に対して、次々に別の情報商材や契約を迫り、『高額なほど簡単に稼げてすぐに元が取れる』等と高額契約に誘導し、数十万円以上の契約をさせることがあります」と注意を促している。100円の入口から20万円前後の請求まで、金額の桁は3桁以上ちがう。その差を埋めているのは、動画と個別相談で積み上げられた「信頼」だけである。
断られたときの一手:『借りればいい』という提案
ここで「今は払えない」と伝えると、初めて借入れの話が出てくることがある。消費者金融の利用や、クレジットカードの分割・リボ払いを勧められる、という流れである。借入れの提案は、最初から出ているのではない。断ったあとに、初めて出てくる。支払いをためらう相手に消費者金融からの借入れを持ちかける手口は、模擬タスクで信用をつくったあとの段階的な借入斡旋でも同じ形で確認されている。
払えると答えていれば出てこなかったはずの提案が、払えないと答えた途端に出てくる。この順番そのものを、私は引っかかる点だと見ている。
『借りればいい』を数字でほどく
この型では、決まって同じ言葉が返ってくる。「今の20万円さえ払えば、あとはシステムが自動で回収してくれる」。手元に金がないと伝えると、今度はこう言われる。「お金がなければ、借りればいい」。
ここで一度、割り算をしてみたい。システム利用料の20万円を、消費者金融で借りたとする。利息制限法は、10万円以上100万円未満の借入れについて上限金利を年20%と定めているが、実務ではおおむね年18%前後で契約されることが多いとされる。
年18%で借り、1年後に一括で返すとすると、利息は20万円×18%=3.6万円。合計23.6万円を返す計算になる。「今の20万円さえ」という話は、気づけば23.6万円の支払い義務に変わっている。
ここでさらに、「もっと稼げる上位プラン」を勧められる場面がある。追加で10万円を借り増しし、合計30万円の借入れになったとする。同じ年18%なら、利息だけで30万円×18%=5.4万円。合計35.4万円を返す計算だ。
借りて、勧められて、また借りる——これを繰り返すほど、返済額は雪だるま式に膨らんでいく。
金融庁は、貸金業者からの借入残高が年収の3分の1を超えると新規の借入れができなくなる「総量規制」というルールを定めている。貸金業法のキホン(金融庁)には「貸金業者からの借入残高が年収の3分の1を超える場合、新規の借入れをすることができなくなります」とある。この一線に近づくほど、次の消費者金融、次のクレジット会社へと渡り歩かせる勧誘になりやすい、と私は見ている。
では、借りてまで契約させて、得をするのは誰か。
日本貸金業協会は「無理な借入れをすると返済が困難になり、生活苦に陥ってしまいます」と注意を呼びかけている。「もうかるから借金は返せる」という言い方は、まだ起きていない将来を断定して見せているだけだ。消費者契約法は、こうした断定的判断の提供によって消費者が誤認した契約を、取り消せる場合があると定めている(消費者契約法第4条第1項第2号)。
立ち止まるための、ゆるい確認
気合いで見抜こうとすると疲れる。私は「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。一番効くのは、その場で決めないことだ。「いったん持ち帰って調べます」を口ぐせにしておくだけで、急かす型の大半は空振りに終わる。
- 「100円」等の少額決済は、あくまで入口の演出だと意識しておく
- 個人情報や年収・借入状況を尋ねられた時点で、一度立ち止まる
- 「借りればいい」と言われたら、その場で借りない・契約しない
- 家族や、利害のない第三者に、契約前に一度話してみてほしい
すでに契約・入金してしまった方へ
もう払ってしまった、あるいは借りて払ってしまった方へ。気持ちは分かるが、まず一つだけ伝えたい。お金を取り戻すこと以上に、これ以上払わない・これ以上借りないことが先だ。
- 追加の支払い・追加の借入れを、いったん止める
- 勧誘や契約のやり取り(動画・LINE・通話メモ・契約書・借入れの勧誘記録)を残す
- 支払った決済元(クレジット会社・消費者金融)に連絡する
- 消費者ホットライン「188(いやや)」や最寄りの消費生活センターに相談する
今回の型のように、「仕事を紹介する」という話とセットでシステム利用料のような費用を求められた契約は、法律上「業務提供誘引販売取引」に当たる場合がある。噛み砕けば、仕事を提供するという話とセットで、その仕事に必要だとしてシステムや商品を買わせる商法、という区分だ。業務提供誘引販売取引(消費者庁・特定商取引法ガイド)は、「法律で決められた書面を受け取った日から数えて20日以内であれば、消費者は業務提供誘引販売業を行う者に対して、契約の解除(クーリング・オフ)をすることができます」と説明している。契約を一定期間内なら白紙に戻せる仕組みだ。
今回の契約がこれに当てはまるかどうかは、私には判断できない。当てはまるかどうかは、消費生活センターに確認してほしい。判断は正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。
この記事のまとめ
- 「100円から」といった軽い入口や、繰り返し見せられる無料動画は、警戒を下げるための段取りにすぎない
- 実際に動くお金はシステム利用料20万円前後で、支払えないと言うと「借りればいい」と持ちかけられることがある
- 借りてまで契約させて得をするのは、システムの成果より先に、売り手の売上であることが多い
すでに払ってしまった方、借りてしまった方も、まず優先してほしいのは一つだけだ。これ以上払わない、これ以上借りない。それを先に決めてほしい。