無料の動画を何本も見せてから高額講座へ——「段取り」で気持ちを温める勧誘の型
「無料のツールを配ります」「まずは動画を見るだけ」。そう言って始まる勧誘がある。タダで何かをくれて、しばらく付き合わせて、最後にようやく値段が出てくる。出てくるころには、こちらの気持ちはすっかり温まっている——そういう順番で進む型だ。今号は、この「段取り」そのものを一度ほどいておきたい。
「段取り」で気持ちを温める、という型
売る側の世界では、こういう売り方を「プロダクトローンチ」と呼ぶことがある。要するに、いきなり商品を出さず、何日かに分けて期待を積み上げてから売る段取りのことだ。それ自体は普通の販売手法でもある。問題は、この段取りが「考える時間と、外に相談する余地を奪う」方向に使われたときだ。
入口でよく見るのは、自動売買やバイナリーオプションの「サインに従うだけで稼げるツール」「無料診断」といった謳い文句である。金融庁も、こうした入口について「友人やSNSを通じて『儲かる』と勧誘され、バイナリーオプション取引の分析ツールが入ったUSBなど高額な情報商材を購入し、勧められた海外無登録業者と取引したところ、多額の損失が発生した」という相談が増えていると注意を出している。入口の「無料」は、たいてい最後の高額商材へつながる滑り台になっている。
入口は「無料」——タダで配られるから、警戒が下がる
最初にお金の話はしない。ツールも、動画も、診断も、まずはタダで渡される。人はタダで何かをもらうと、相手に少し借りができたような気持ちになる。その「借り」を、後で回収しにくる。無料の段階で警戒を解かせること自体が、段取りの一手目だと見ておきたい。
回を重ねるほど、信頼が積み上がる——という設計
動画やLINEのメッセージは、一度では終わらない。何回かに分けて届く。「次回はさらに踏み込んだ内容を」と引っぱられ、毎回少しずつ期待が上がる。これは情報量のためというより、付き合った時間そのものを信頼に変えるための設計だと思う。たくさんの時間を使ったあとほど、人は「ここまで来たのだから」と引き返しにくくなる。
最後に電話が来る——「今日だけ」「借りてでも」
段取りの締めくくりは、たいてい個別の電話面談や面談予約である。ここで初めて、数十万円から百万円を超える「講座」「サロン」「サポートプラン」の値段が出てくる。そして急かしてくる。「今日決めれば割引」「枠は今だけ」。さらに踏み込むと、支払えないと言う相手に「消費者金融で借りてでも価値がある」と勧める例まである。
国民生活センターは、副業や投資の勧誘で「200万円超のサポートプランが次々と提案された」事例や、若い世代に借金をさせてまで契約させる手口に注意を呼びかけている。借りてでも、という言葉が出た時点で、それはもう「あなたのための話」ではなくなっている。私はそう見ている。
数字でほどく——増えるのは、誰の口座か
では、お金の流れを追ってみたい。入口は無料。ツールでいくら稼げるかは、こちらからは確かめられない。一方で、最後に確実に動くお金がある。受講料だ。仮に講座が50万円から150万円だとすると、100人が申し込めば、それだけで5,000万円から1億5,000万円が売り手に入る。
つまり、ツールで利用者が勝てるかどうかとは別に、講座が売れた時点で売り手の利益はもう確定している。確実に増えるのは、利用者の投資口座ではなく、売り手の売上のほうだ——という構図になりやすい。「で、その利益の出どころは?」と一度問えば、無料ツールの“成果”ではなく、申込者から集めた受講料に行き着くことが多い。
そもそも「絶対勝てる」「毎月いくら自動で稼げる」という言い切りは、法律の側からも問題になる。金融商品取引法は、勧誘にあたって「不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げて」契約を勧める行為を禁じている(金融商品取引法 第38条)。確実に儲かる、と言い切る勧誘そのものが、まず立ち止まる理由になる。
立ち止まるための、ゆるい確認
気合いで見抜こうとすると疲れる。私は「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。一番効くのは、その場で決めないこと。「いったん持ち帰って調べます」を口ぐせにしておくだけで、急かす段取りの大半は空振りに終わる。そのうえで、
- 「無料」で始まっても、最後に値段が出る前提で眺める
- 動画やLINEの回数を重ねたあとの「特別なご案内」ほど、一拍おく
- 勧められた取引業者が国の登録を受けているか、金融庁の無登録業者の公表情報で確かめる
- 「今日だけ割引」「借りてでも」が出たら、その場で契約しない
- 利害のない家族や友人に、契約前に必ず一度話してみる
もし、すでに申し込んでいたら
無料ツールを受け取った、電話で高額講座を勧められている、あるいは払ってしまった——そういう方へ。気持ちは分かるが、まず一つだけ。お金を取り戻すこと以上に、これ以上払わないことが先だ。順序はこうなる。①追加の入金や上位プランの契約を、いったん止める ②勧誘や決済のやり取り(動画・LINE・通話メモ・振込記録)を残す ③支払った決済元(カード会社・銀行)に連絡する ④消費者ホットライン「188(いやや)」や、警察相談専用電話「#9110」、消費生活センターに相談する。私には個別の解決はできない。判断は正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。
この記事のまとめ
- 「無料ツール → 何度も動画 → 電話で高額講座」という段取りは、時間を投じさせて引き返しにくくする設計
- 確実に増えるのは利用者の口座ではなく、受講料を集める売り手の売上になりやすい
対策は結局のところ、その場で決めない・お金の出どころを数字で確かめる・第三者に話す。この3つに尽きる。「借りてでも」が出たら、そこで止めてほしい。