無料の株価材料コラムが「利益率200%超」の一例と経歴の肩書きで信頼を作り、有料AI銘柄ツールへ登録させる型を、金融庁・国民生活センターの一次情報で調べた
相場ニュースのような体裁の記事の中に、値上がりが期待される銘柄を並べる無料のコラムがある。その中に、過去の一例として「利益率200%を超えた」という驚くほど高い数字と、「もと金融機関に勤めていた」といった経歴の紹介が添えられている場合がある。特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、お金の流れで調べた。
「無料」の入口に、なぜ驚くほど高い一例が置かれるのか
コラムの作りはこうだ。冒頭で当日の株価材料や決算の話題を並べる。そのすぐ後か記事の終盤に、過去の実例として突出した利益率が一つ示される。「利益率200%超」のような具体的な数字が示されると、読んでいるこちらは「この担当者は本当に見抜けるらしい」という印象を先に持ってしまう。
ここに、経歴の紹介が重ねられることがある。「もと証券会社に勤めていた」「自分自身も投資商材の被害に遭った経験を活かしている」——そう名乗られると、専門知識と当事者としての誠実さの両方を備えているように見えてくる。だが、経歴や肩書きの強さと、実際にその後も同じ精度で当てられるかどうかは、別の話だ。
著名な人物や実績を掲げて信頼を得ようとする勧誘そのものは、珍しくないと公的機関も指摘している。国民生活センターは、SNSをきっかけとした金融商品・サービスの勧誘について「投資に対する不安を払しょくするため、著名人の知名度や実績、権威を悪用して勧誘しているものと考えられます」と述べている(国民生活センター・2024年5月29日)。これは特定の事業者を名指ししたものではなく、経歴や肩書きを使って信頼を作る型そのものへの注意喚起として、私は読んでいる。
「利益率200%超」という一例は、母数のうちどれくらいか
ここで一度、割り算をしてみたい。かりに「AIが毎日3800銘柄以上を分析している」とうたわれているとする。突出した一例として示されるのが、そのうちの1銘柄だとすれば、3800分の1、パーセントに直すとおよそ0.03%にすぎない。条件を甘くして、同水準の実例が10銘柄あったとしても、3800分の10、0.3%ほどだ。
つまり、示された一例がどれほど華々しくても、それは母数全体の成績を表す数字ではない。一つの成功例を見せることと、平均してどれだけ当たるかを見せることは、まったく別の作業だ。後者の数字を示さないまま、前者だけを置く記事には、一度この割り算を当ててみたほうがいい。
この種の「無料」がどこに向かうか
「無料で注目株の情報を提供する」という入口そのものが、SNS上の投資勧誘でよく見られる手口の一つとして、公的機関に挙げられている。金融庁は「無料で注目株や利益確定銘柄の情報を提供すると偽る」手口を、注意すべき型の一つとして紹介している(金融庁・2025年12月23日公表)。ここでいう「偽る」がどこまで当てはまるかは案件ごとに違うだろう。ただ、無料の入口の先に何があるかを確かめる姿勢は、どの案件でも共通して要る、と私は思う。
国民生活センターも、副業や投資の儲け話をめぐる相談事例として「初めから高額契約を勧誘するのではなく、無料や少額の情報商材を販売してから高額契約を勧誘する事例があります」と報告している(国民生活センター・2018年8月2日)。副業や投資などで高額収入を得るためのノウハウ等として販売される情報を、同センターは「情報商材」と呼ぶ。無料の株情報から有料のAIツールへ、という順番自体が、この型に重なるように見える。
で、その利益の出どころは?
有料のAI銘柄選定ツールを売る側の収益は、どこから生まれているのか。銘柄の予想が本当に高い精度で当たり続けているなら、他人に売るより、その情報を使って自分たちで運用したほうが、早く確実に増えるはずだ。それでも他人に有料で売っているのだとしたら——で、その利益の出どころは? 予想の的中からではなく、ツールの利用料そのものから生まれているのかもしれない……。
有料の投資助言を継続的に行うのであれば、金融商品取引法上の「投資助言・代理業」として、事前の登録が必要になる場合がある。財務省関東財務局は「投資助言・代理業を業として開始しようと考えている方は、事前に法律に基づく登録が必要となります」と案内している(財務省関東財務局・投資助言・代理業関係)。金融庁も「日本で登録を受けずに金融商品取引業や暗号資産交換業を行うことは違法です」としている(金融庁・無登録業者との取引は要注意)。経歴の肩書きがどれほど整っていても、登録の有無とは別の話だ。
すでに有料のツールや相談プランを契約し、解約や返金で困っている場合は、私に個別の解決はできない。消費者ホットライン「188」や最寄りの消費生活センター、警察など、正規の窓口に相談してほしい。
- 見せられた利益率が、母数のうちどれくらいの割合の実績かを考える
- 「もと金融関係者」「被害経験者」という経歴は、投資助言・代理業の登録の有無を保証しないと知っておく
- 無料の情報を受け取っただけで、その場で有料への切り替えを決めない
- 有料ツールの収益源が、予想の的中なのか、利用料そのものなのかを一度考えてみる
この記事のまとめ
- 無料の株価材料コラムに、突出した利益率の一例と経歴の権威付けが添えられ、有料のAI銘柄選定ツールへ導かれる型がある
- 一つの利益率の実例は、分析対象の母数のうちごく一部にすぎない場合がある
- 有料の投資助言には金融商品取引法上の登録が必要になる場合があり、経歴の肩書きは登録の有無を保証しない
無料はそのまま無料で受け取り、有料への切り替えは一晩置いてから考える。私はそれで十分だと思っている。(黒)