自ら「規制された組織ではない」と記す暗号資産自動売買が、著名人の顔で信頼を演出する型を、無登録業者の公表制度で確かめた
暗号資産の自動売買AIを謳う勧誘の広告を眺めていて、少し引っかかる組み合わせに気づいた。広告の面では、テレビでよく見る顔と、報道機関を模した記事風のページと、「45日で元手が何倍にもなった」という利益シミュレーションが並ぶ。ところが同じサービスの利用規約・免責事項をたどると、運営者自身が「規制された組織ではありません」と書いていることがある。特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れるこの「広告面の信頼演出」と「規約面の自己申告」の温度差を、型として調べた。
型を、広告と規約の“温度差”から分解する
個別の事業者名は伏せる。だが、寄せられた広告と規約の作りを並べると、共通する組み立てが見えてくる。著名人を使った自動売買の広告については、以前にも別の角度から調べたことがある。「あの著名人が使うAI自動売買」――ニュースを模した広告から入る勧誘の型を、お金の流れでほどくという記事だ。今回はその広告の裏側、つまり運営者自身が用意している規約の文言という切り口から見ていく。
広告面:著名人の顔、偽装ニュース記事、利益シミュレーション
広告には、テレビ・雑誌等で見覚えのある著名人の名前や写真が、本人の許諾なく使われる。誘導先は報道機関のロゴやレイアウトを模した記事風のページであることが多く、そこに「〇十万円が〇十日で数倍になった」という具体的な利益シミュレーションの数字が添えられる。数字が細かいほど、根拠があるように見えてしまう——そこが狙いだろう、と私は見ている。
規約面:「規制された組織ではありません」という一文
一方で、同じサービスの利用規約や免責事項のページを開くと、「当社は規制された組織ではありません」「投資結果を保証するものではありません」といった一文が置かれていることがある。広告では信頼できる金融サービスのように見せながら、規約では自ら監督を受けていないと認めている。この二枚舌の構造そのものが、確認しておきたい型だ。
相談事例で確かめる——著名人なりすまし広告のトラブルは、どのくらい起きているか
この型がどの程度の広がりを持つのか、公的な統計で確かめておきたい。「SNSをきっかけとして、著名人を名乗る、つながりがあるなどと勧誘される金融商品・サービスの消費者トラブルが急増」(国民生活センター・2024年5月29日)は、関連の相談件数が2021年度52件→2022年度170件→2023年度1,629件へ急増したと報告している。消費者庁も「SNSなどを通じた投資や副業といった『もうけ話』にご注意ください!」(消費者庁)で、「著名人・有名人のなりすましと考えられる事例が令和5年度下半期以降、増加傾向にあります」と注意を呼びかけている。数字だけ見ても、広告面の「著名人の顔」がここ数年で急速に増えた手口だということが分かる。
暗号資産の自動売買という切り口では、「『FX取引・暗号資産投資の勧誘』にご注意!!」(金融庁・2023年)が、「『自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる』などと言って、FX・バイナリーオプション・暗号資産等への投資を一方的に勧めてくるケースが以前より発生しています」と説明する。「なにもしなくても儲かる」という誘い文句自体が、以前から繰り返し使われてきた型だということになる。
「45日で数倍」という利益シミュレーションは、断定的判断の提供と紙一重
広告に添えられる利益シミュレーションの数字を、法律の側から確かめておく。消費者契約法第4条第1項第2号は、「将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること」(消費者契約法・e-Gov法令検索)を、契約の取消しうる勧誘行為として定めている。『逐条解説 消費者契約法』(消費者庁)はこの「断定的判断」を、「確実でないものが確実である(例えば、利益を生ずることが確実でないのに確実である)と誤解させるような決めつけ方」と説明し、「絶対に」「必ず」のような言葉を伴うかどうかは問わないとも付け加えている。
元手が数十日で数倍になるという具体的な数字を、根拠を示さないまま並べる行為は、この「決めつけ方」に文脈上重なる——ここは法的に断定はしないが、編集部としてはそう見ている。数字が具体的であればあるほど、逆に「その数字は誰がどう検証したものか」を確かめる価値がある。
「規制外」を自認していても、暗号資産の売買には登録が要る
広告面の演出とは別に、そもそも暗号資産の自動売買を仲介する行為そのものが、日本の制度上どう位置づけられるかも確かめておきたい。「暗号資産の利用者のみなさまへ」(金融庁)は、「国内で暗号資産と法定通貨との交換サービスを行うには、暗号資産交換業の登録が必要となりました」と説明する。資金決済法は「暗号資産交換業者」とは、登録を受けた者をいう(資金決済に関する法律・e-Gov法令検索)と定めており、登録の有無は名乗り方の問題ではなく制度上の要件だ。
無登録業者と取引した場合に何が起きるのかは、「無登録業者との取引は要注意!!」(金融庁)が具体的に説明している。「預けた資金を出金しようとしたときに、これまで出金ができていたにもかかわらず、出金の拒否や法外な出金手数料を請求されたりするほか、これまで連絡が取れていたのに急に連絡が取れなくなるなどといったトラブルに遭ったという声が多く寄せられています」という一文だ。規約に「規制外」と書いてあるかどうかにかかわらず、無登録業者一般に当てはまる説明として読める。
確認しておきたい3つのこと
広告の演出の巧拙を疑う必要はない。確かめたいのは、運営者の立ち位置と数字の根拠だ。
確認1:運営者は暗号資産交換業の登録を受けているか
「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」(金融庁)のような公表リストに載っていないからといって、登録済みとは限らない。金融庁自身が「掲載されていない者でも、無登録営業に該当する行為を行っていることがあり得ます」と付け加えている。登録番号を運営者に直接確認できるかを見ておきたい。
確認2:利益シミュレーションの数字は、誰が計算し、誰が保証しているか
「45日で数倍」のような数字が、どういう計算根拠で、誰の責任のもとで提示されているのかを確認する。根拠を示せない、あるいは「AIが自動で」としか答えられないなら、それ自体が確認したい点になる。
確認3:広告の著名人・肩書は、本人の許諾を得たものか
広告に使われている著名人の名前・写真・肩書が、本人または所属事務所の許諾を得たものかどうかは、多くの場合、広告主に直接問い合わせても明確な回答が得られない。答えが得られないこと自体が、一つの答えでもある。
すでに入金してしまった方へ
すでに登録・入金し、電話営業から追加入金を促されている、あるいは出金ができずに困っている方へ。まず一つだけ確認してほしい。
- 追加の入金・追加の借入れをいったん止める
- 広告ページ・規約ページ・シミュレーション画面はスクリーンショットで保全する
- 入金に使ったクレジットカード会社・銀行・決済代行事業者に、被害の相談として連絡する
- 消費者ホットライン「188」や最寄りの消費生活センターに相談する
この記事のまとめ
- 暗号資産の自動売買勧誘には、著名人の顔・偽装ニュース記事・利益シミュレーションで信頼を演出する一方、規約では自ら「規制された組織ではない」と認める型がある
- 著名人なりすまし広告の相談件数は2021年度52件から2023年度1,629件へ急増しており(国民生活センター)、広告面の演出は近年急速に広がった手口だと分かる
- 「非規制」の自己申告は運営者の免責にはなっても利用者の保証にはならず、暗号資産の交換サービスには資金決済法上の登録が別途必要になる
確かめるべきは、広告の見せ方の巧拙ではなく、運営者の登録の有無と、利益シミュレーションの数字の根拠だ。