第286号黒岩検閲済 2026年7月4日 発行(不定期刊/前号:7月4日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
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調査報告|著名人体験談×自動売買ウェビナーの型

著名人の体験談を使った「自動売買で毎月50万円」ウェビナーが、名前の表記だけ変えて複数展開される型を、届出情報で調べた

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黒岩警戒度

テレビや動画で見たことのある著名人が、無料のオンラインセミナーの中で「投資歴25年」「今はビリオネアと呼ばれる立場になった」というような体験談を語っている——という体裁の勧誘に触れたことはないだろうか。今号で調べたいのは特定のセミナーや人物ではない。著名人の体験談だと思わせる動画を入口に、AIによる自動売買で「毎月数十万円が増える」と誘い、参加後に数十万円規模の有料プランへ進ませる、という一連の型だ。加えて、同じ発信者と思われる相手が、名前の表記や案件名だけを変えて、似た内容のセミナーを複数展開しているように見えるケースも確認できたので、あわせて記録しておく。

なぜ「著名人の体験談」が入口として機能するのか

テレビや雑誌で名前を知っている相手が、身振り手振りを交えて自分の成功体験を語る。その映像を見た人は、内容の真偽を検討する前に「この人が言うなら」という納得を先に持ってしまいやすい。実際にその著名人本人が語っているのか、動画がどこでどう作られたものかを、視聴者がその場で確かめる手段はほとんどない。体験談が具体的であるほど(年数・金額・肩書)、検証より先に納得が来てしまう。以前の号で扱った「経歴の厚みがなりすましの材料になる」型と根は同じだが、今回は経歴紹介記事ではなく、セミナー動画そのものが入口になっている点が違う。

で、その利益の出どころは?

国民生活センターは2024年5月、SNSをきっかけに著名人を名乗る・つながりを示す投資勧誘の相談が急増していると発表し、「著名な投資家や経済学者等を名乗っていても、本人に無断で写真や氏名等を使用した勧誘が横行しています」と説明している。金融庁もSNS・マッチングアプリ等で知り合った者や著名人を騙る者からの投資勧誘に繰り返し注意を呼びかけている。「自動売買で毎月◯十万円」という確実性を装った利益の提示は、金融商品取引法第38条が禁じる「不確実な事項について断定的判断を提供」する勧誘にあたりうる行為で、これは本来、正規に登録された金融商品取引業者であっても法律で禁じられている行為だ。そもそも投資助言や運用を業として行うには内閣総理大臣の登録が要る。で、その利益の出どころは?――体験談の説得力ではなく、その事業を誰が、どんな登録のもとで行っているかだ。

数字で見る、著名人便乗の広がり

印象だけの話ではないことを、数字で見ておく。国民生活センターの集計では、著名人を名乗る・つながりを示す投資勧誘についての相談件数は2021年度52件から2023年度1,629件へ、約9.6倍に急増している。警察庁の確定値でも、令和7年のSNS型投資・ロマンス詐欺全体の認知件数は15,168件・被害額1,834.3億円(前年比+48.2%/+44.2%)で、このうちSNS型投資詐欺は認知件数9,538件・被害額1,274.7億円と、前年から大きく伸びている。著名人の名前を借りる手口が、一時的な流行ではなく増え続けている型だとわかる。

数字でほどく 著名人を名乗る・つながりを示す投資勧誘の相談件数は2021年度52件→2023年度1,629件(約9.6倍、国民生活センター2024年5月発表)。令和7年のSNS型投資詐欺は認知件数9,538件・被害額1,274.7億円(警察庁確定値、前年比+48.7%/+46.3%)。

もう一つの引っかかり——運営の実体が確認できないこと

今回調べた型では、セミナーの先にある有料プランの運営元が、海外に拠点を置く法人だと説明されているケースが目立った。特定商取引法は通信販売を行う事業者に対し、氏名(名称)・住所・電話番号などの表示を求めている。消費者庁は海外の事業者が日本向けに販売を行う場合も、原則としてこの法律の対象になるとしている。海外拠点をうたうこと自体が直ちに違法だとは言えない。ただ、代表者名や電話番号といった、何かあったときに連絡を取れるはずの情報が確認できない状態は、少なくとも「事業者の実態を確認できない」ということそのものだ。金融庁も海外に所在地があると称する無登録業者について、「記載の住所に実際に存在し活動していることも、まずありません」と注意を呼びかけている。

加えて今回の調査では、同じ人物ではないかと思われる発信者が、名前の表記や案件名だけを変えて、似た内容のセミナーを複数展開しているように見えるケースも確認できた。これは公的機関の統計があるわけではなく、あくまで本誌が個別に確認した観測にとどまる。ひとつの案件名で検索して「特に問題は見当たらない」と判断する前に、表記違いの類似案件がないかまで確かめてほしい

確認しておきたい3つのこと

体験談の内容そのものを疑う必要はない。確かめるべきは、その体験談と、実際に申し込む先が、本当に地続きなのかどうかだ。

確認1:体験談の主とされる本人が、このセミナー・プランを公式に認めているか

本人の公式サイトやSNS、所属事務所の発表などに、同じセミナーや商材についての告知があるかどうかを確認する。見当たらないなら、体験談と勧誘の間には何の関係もない、と考えたほうが安全だ。

確認2:申込先の運営者名・所在地・電話番号を、自分で確かめられるか

特定商取引法に基づく表記のページを開き、代表者名・住所・電話番号が明記されているかを見てほしい。「海外法人のため非公開」といった説明で済まされている場合、何かあったときに連絡を取る手段がないのと同じだ。

確認3:同じ発信者・似た内容のセミナーが、別の名前で他にもないか

体験談を語る人物名やセミナー名だけでなく、キーワードの一部(「自動売買」「毎月◯万円」など)でも検索してみる。表記違いの類似案件が複数見つかるようなら、それ自体が立ち止まる理由になる。

迷ったとき用の一言 「このセミナー、本人はこの先の有料プランのことを知っていますか」。この一問に、セミナーの外側でも答えが確認できるかどうか。確認できないなら、それはそれで答えだと思う。

この記事のまとめ

  • 著名人の体験談だと思わせる動画は、真偽を確かめる手段が乏しいまま「この人が言うなら」という納得を先に運びやすい
  • 著名人を名乗る・つながりを示す投資勧誘の相談は2021年度52件→2023年度1,629件へ急増(国民生活センター)。令和7年のSNS型投資詐欺は認知件数9,538件・被害額1,274.7億円(警察庁確定値)

確かめるのは体験談の説得力ではなく、本人がその勧誘を公式に認めているかどうか、そして申込先の運営者情報を自分で確認できるかどうかだ。