「あの著名人が使うAI自動売買」――ニュースを模した広告から入る勧誘の型を、お金の流れでほどく
有名な経営者の顔写真。新聞記事のような見出しと本文。そして「元プロが開発したAIが、仮想通貨を自動で運用して増やす」という案内。この三点がそろった広告を、今号は洗った。特定の案件は名指ししない。案件をまたいで繰り返し現れる一つの型として読んでほしい。派手に見えて、お金の流れで追うと、たどり着く先はいつも同じところだ。
なぜ「著名人の名前」と「ニュースの体裁」が入口に使われるのか
入口の作りには、はっきりした役割がある。著名人の名前と顔は「信用の借り物」だ。自分たちには実績がないので、誰もが知っている経営者が「使っている」「推薦している」という形にして、その人への信頼をそのまま話に移す。ニュースサイトを模した体裁も同じで、新聞や経済メディアの見た目を借りて「これは広告ではなく報道だ」と錯覚させる。要するに、中身ではなく外側で信用を作っている。
だが、ここはすぐ確かめられる。著名人が本当に関わっているなら、その人の公式発表や正規のメディアに同じ話が載っているはずだ。広告のリンク先だけにしか存在しない「推薦」は、推薦ではない。金融庁も「著名人等になりすましたものを始めとするSNS上の投資広告や投稿等による詐欺被害が数多く発生している」として情報受付窓口を設けている。名前を借りられた側もまた被害者だ、という前提で見たほうがいい。
「AIが自動で」という言葉が隠してしまうもの
「AIが自動で運用する」という説明は、便利な目隠しになる。中身が分からなくても「賢い仕組みが勝手にやってくれる」と思えてしまうからだ。だが、道具がAIであろうと人であろうと、問いは変わらない。で、その利益の出どころは?――誰かの売買で生まれた益なのか、それとも後から入ってきた人の入金を回しているだけなのか。そこが説明されない限り、AIという言葉は何も保証しない。
金融庁も、「自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる」などと言って暗号資産等への投資を一方的に勧めてくるケースが発生していると注意している。「なにもしなくても」というのは、裏を返せば「中身を確かめられないまま預ける」ということでもある。私は、自動という言葉が出てきたら、むしろ一度立ち止まる合図にしている。
お金の流れで見ると、どこで詰まるのか
この型は、入金してからの運びがほぼ決まっている。順にたどると、こうなる。まず登録すると、画面の中の数字がきれいに増えていく。だが、その画面は運営側が表示しているもので、こちらからは裏が取れない。少額なら出金できることもあり、それで安心して高額を入れる。そして本当に引き出そうとした段になって、止まる。
金融庁の相談事例は、この詰まり方を具体的に記している。「しばらくは利益が出たように装い、少額の出金ができることもあります。安心、信用して高額な入金をしたり、高額な出金要請をすると、突然、連絡が取れなくなったり、口座凍結を解除するためと称して、手数料、保証金や税金の支払いといった名目で、さらに高額な入金を要求される」という流れだ。出金できないだけでは終わらず、「出金のために先に払え」と、もう一段の入金を求めてくる。ここが、被害が一気に膨らむ地点になる。
名前を変えて、また出てくるという前提
もう一つ、この型には厄介な性質がある。同じ仕組みが、名前だけ変えて何度も出てくることだ。一つの呼び名で評判が悪くなると、別の名前にして再び広告を流す。だから「その名前で検索して悪い話が出てこなかった」ことは、安全の証明にならない。新しい名前なら、まだ評判が溜まっていないだけ、ということがある。
名前の新旧に頼らず確かめられる物差しが一つだけある。登録の有無だ。海外に拠点があっても、日本の居住者に向けて金融商品取引業や暗号資産交換業を行うなら、日本での登録が要る。金融庁は「日本で登録を受けずに金融商品取引業や暗号資産交換業を行うことは違法」とし、無登録業者は「投資者等の保護のための態勢が整っていない可能性が高い」と注意している。相手が登録業者かどうかは、名称や電話番号から自分で検索して確かめられる。広告の見た目ではなく、この一点で測りたい。
数字でほどく――「みんな引っかからない」とは言えない規模
この種の話は、油断していると「自分だけは大丈夫」と思いがちだ。だが、規模を数字で見ておきたい。警察庁の集計では、令和6年のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は1万237件、被害額は約1,272億円で、1件当たりの平均被害額は1,200万円を超える。1件で1,200万円という数字は、軽い気持ちで入った少額が、出金のための追加入金まで含めて膨らんだ結果だと見ている。
著名人を使った入口に絞っても、相談は急に増えている。国民生活センターによれば、SNSをきっかけに著名人を名乗る・つながりがあるなどとして勧誘される金融商品の相談は、2023年度に1,629件と前年度の約9.6倍に増えた。つまり、この型は珍しい事故ではなく、いま広く流れている入口だ、ということになる。では、その1,272億円は、いったい誰の財布から、どこへ流れていったのか。
確かめる順序(広告の見た目に頼らないために)
気合いで見抜こうとすると疲れる。私は、順番を決めて一つずつ潰すのがいいと思っている。
- 著名人の関与は、その人の公式発表や正規メディアに同じ話があるかで確かめる(広告のリンク先だけにあるなら、無いものとして扱う)
- 運用する相手が金融庁の登録業者かを、名称や電話番号から自分で検索して確かめる
- 画面に出る利益は「自分の手で裏が取れるか」を基準にする。取れない数字は根拠として弱い
- 「出金するために、先に税金・保証金・手数料を払え」と言われたら、そこで止める。追加入金は被害が膨らむ地点だと覚えておく
- 名前が新しいことは安全の証明にならない。同じ仕組みが改名して再登場する前提で見る
この記事のまとめ
- 「著名人の名前」「ニュースの体裁」「AIが自動で」は、いずれも中身ではなく外側で信用を作るための借り物
- お金の流れは「画面で利益演出→少額は出金可→高額入金→出金のため税金・手数料を先払い要求」で詰まる。ここで被害が膨らむ
- 名前の新旧ではなく、登録の有無で測る。無登録の海外業者との取引は保護の態勢が整っていない可能性が高い
すでに入金してしまった場合も、お金を取り戻すこと以上に、これ以上払わないことが先だ。追加の支払いを止め、やり取りの記録を残し、決済元に連絡したうえで、消費者ホットライン「188」や警察相談専用電話「#9110」など正規窓口に相談してほしい。判断は、そこに委ねるのが一番確かだ。(黒)