「あの有名アナリストが無料で教える」という看板の型を、お金の流れでほどく
「テレビでもおなじみのあの専門家が、億り人になる方法を無料でマンツーマンで教えてくれる」。投資のブログやSNS広告で、有名なアナリストや経済評論家の名前・経歴・顔写真を看板に掲げた誘い文句をときどき見かける。今号は特定の人物や案件を指すのではなく、この“権威を借りる”という入り方を一つの型としてほどいてみる。名前を出された専門家その人を疑うわけではない。ただ、立派な経歴の脇に「無料で教える」「資産が何倍になった」という話が並んでいるとき、その看板と数字の出どころを一度だけたどっておきたい。
なぜ「有名な人の名前」から入るのか
知らない人の「儲かります」は警戒される。だが、テレビや雑誌で見たことのある専門家の名前と経歴が添えられると、同じ言葉でも急に確からしく聞こえてしまう。判断の前に「この人なら大丈夫だろう」という気持ちが先に立つ。これは偶然ではなく、入口の作り方だと私は見ている。借りているのは中身ではなく、相手が積み上げた信用そのものだ。
金融庁も、著名人の名をかたる勧誘について「偽アカウント・偽広告は著名人のアカウント・広告を装います。偽アカウント・偽広告は公式アカウントやウェブサイトで掲載されている写真を無断転載したりして本人を名乗ることもあります」と注意を促している(金融庁「SNS・マッチングアプリ等で知り合った者や著名人を騙る者からの投資勧誘等にご注意ください!」)。名前も経歴も本物に見えても、それを語っている相手が本人だとは限らない、ということだ。
こうした相談は増えている。国民生活センターは、著名人を名乗る・つながりがあるなどとして勧誘される金融商品のトラブルが急増しているとして、2023年度に1,629件の相談が寄せられたと公表している(国民生活センター「SNSをきっかけとして、著名人を名乗る、つながりがあるなどと勧誘される金融商品・サービスの消費者トラブルが急増」)。
「無料」と「7.7倍」の出どころをたどる
ここが核心になる。権威の隣には、たいてい二つの言葉が置かれている。「無料で教える」と、「資産が短期間で何倍になった」だ。どちらも、まず出どころを聞いてみたい。
「半年で7.7倍」を、まず割り算でほどく
たとえば「半年で資産が7.7倍になった投資術」とうたわれていたとする。電卓を叩いてみてほしい。半年で7.7倍になるには、ひと月あたりおよそ4割ずつ増える計算になる。1.4をかけ続ける、ということだ。それを1年(12か月)続ければ、元手はおよそ60倍に膨らむ。1万円が1年で60万円近くになる、という数字だ。そんな運用が本当にあるなら、人に無料で教えて回る前に、黙って自分で回しているはずだ。私はそう見ている。で、その利益は、いったい誰の何から出ているのか。
「無料」の終点は、たいてい「LINEで個別に」
無料の講義やレッスンは、入口にすぎないことが多い。やり取りが進むと、連絡先をLINEなどの一対一の場所へ移すよう促される。警察庁はこの流れを、「SNSのダイレクトメッセージで接触後、被害者をLINEなどの他のSNSに誘導し、『株や暗号資産に投資すれば利益が得られる』などと言葉巧みに被害者を信用させ、最終的に、『投資金』や『手数料』などという名目で……金銭等を振り込ませる詐欺です」と整理している(警察庁「SNS型投資詐欺」)。無料で始まった指導の終点が、入金やソフト購入の案内になっていないか。そこを見ておきたい。
金融庁も、SNS上の投資勧誘の手口の一つとして「無料で注目株や利益確定銘柄の情報を提供すると偽る」点を挙げている(金融庁「それ詐欺です!SNS上の投資勧誘にご注意ください!」)。つまり「無料」は撒き餌として使われることがある、ということだ。
看板は測れないが、登録と数字は確かめられる
相手が本人かどうか、好意が本物かどうかは、こちらには測りようがない。もっとも、勧誘してくる事業者のほうは、調べれば確かめられる。
有価証券の価値などについて助言することを仕事として行うには、投資助言・代理業の登録が必要になる。「無料」をうたっていても、業として助言を行うのであれば同じだ。登録のない者かどうかは、金融庁が公表する無登録業者の名称等の一覧で照らすことができる(ただし同庁は、一覧に載っていない業者が違法な営業を行っている可能性もある旨を併記している)。
そして、うたい文句のほうも一度たどっておきたい。金融庁は詐欺的な勧誘の典型例として「上場確実ですので、必ず儲かります! 元本も保証します!」といった文言を挙げている(金融庁「詐欺的な投資勧誘等にご注意ください!」)。「必ず」「絶対」「元本保証」と言い切る勧誘は、それ自体が一歩引いていい合図だ。
規模も小さくない。警察庁の暫定値では、令和7年のSNS型投資詐欺の認知件数は9,538件、被害額は1,274.7億円にのぼる(警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」)。一度信じてしまうと、何度も振り込んでしまう構造があるからだ。
巻き込まれないための、ゆるい行動ルール
気合いで見抜こうとすると疲れるので、私は「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。一番効くのは、その場で申し込まないこと。「いったん持ち帰って、事業者を調べます」を口ぐせにしてしまえば、それだけで大半は防げる。そのうえで、
- 有名人の名前や経歴が看板に使われていたら、いったん立ち止まって眺める
- 「半年で◯倍」のような数字は、割り算で1年分に伸ばして現実味を測る
- 無料の指導の終点が「LINEで個別に」「この口座で」「このソフトを」になっていないか確かめる
- 勧誘してくる事業者が登録を受けているかを、金融庁の一覧で自分の手で照らす
この記事のまとめ
- 「有名アナリストが無料で教える」型は、権威の借用 → 無料の入口 → 実績数字の提示 → LINE個別 → 入金・ソフト購入、という流れになりがち
- 確かめたいのは二つ、「で、その利益の出どころは?」と「いま話している相手は、本当に本人か」――名前と経歴は本物でも、語り手と案内先までは別の話だ
対策は結局のところ、その場で申し込まない・数字を割り算で確かめる・案内先の登録を自分で照らす。この3つに尽きる。最終的な判断は、警察・消費生活センターなど正規の窓口に委ねてほしい。