「実体験で損した私が無料で教えます」という親身な先輩の型を、お金の流れでほどく
「実体験で損をした私が、あなたには同じ思いをしてほしくないから、無料で教えます」。投資のブログやSNSで、こういう語りかけをときどき見かける。今号は特定の誰かを指すのではなく、この“親身な先輩”という入り方を一つの型としてほどいてみる。親切そのものを疑うわけではない。ただ、見ず知らずの相手に無料で長く面倒を見てくれるという話には、たいてい出どころがある。そこを一度だけたどっておきたい。
なぜ「損した話」から入るのか
損失を先に打ち明けられると、こちらは身構えにくくなる。「海外の業者で100万円以上を失った」「出金トラブルに遭った」と弱みのほうから見せられると、売り込みではなく忠告のように聞こえる。これは偶然ではなく、入口の作り方だと私は見ている。
警察庁は、SNSのダイレクトメッセージで接触した後、被害者をLINEなどのほかのSNSへ誘導し、「投資すれば利益が得られる」などと言葉巧みに信用させて、投資金や手数料の名目で金を振り込ませる手口を整理している(警察庁「SNS型投資詐欺」)。入口は、たいてい共感から始まる。「同じ失敗をしてほしくない」という気づかいそのものが手段になりうる、というのが少し怖いところだ。
親身に見える態度で警戒を解いてから本題へ——という運びは、以前まとめたSNS勧誘DMの5パターンとも重なる。型は違って見えても、入口の言葉はいつも同じ場所に収まる。
「無料で教える」の出どころをたどる
ここが核心になる。無料にも、相手の時間という維持費はかかっている。何年分かのノウハウを、見ず知らずの人に手間をかけて教える——その動機はどこにあるのか。で、その無料の出どころは?
多くの場合、終点は「この業者で口座を」
親身なやり取りの行き先が、最後に「この海外の業者で口座を開いて」という案内になっていることがある。紹介を通じて口座が作られ、取引が始まると、紹介した側に業者から報酬が入る仕組みが存在する。つまり「無料で教える」ことの収入は、受講料ではなく、こちらが口座を開いて取引すること自体から出ている場合がある。だとすれば、こちらは教わる生徒であると同時に、紹介報酬を生む「客」でもある。無料の親切が、なぜ続けられるのか。その答えがここにあることがある。
「放置で増える」自動売買がセットになる
案内された業者では、自動売買ツール——EAやBOTと呼ばれるもの——の利用を勧められることがある。決めた条件で機械が自動で売り買いする仕組みで、人が画面に張り付かなくていいのは本当だ。だが自動で動くのは利益だけではない。条件が外れれば、損失も同じように自動で積み上がる。金融庁も「自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる」という誘い文句に注意を促している(金融庁「SNS・マッチングアプリ等で知り合った者…からの投資勧誘等にご注意ください」)。
無料の親切は測れないが、案内先は確かめられる
相手の好意が本物かどうかは、こちらには測りようがない。もっとも、相手が案内してくる業者のほうは、調べれば確かめられる。
日本の居住者を相手にFX取引を業として行うには、金融商品取引業の登録が必要で、日本で登録を受けずにこれを行うことは禁じられている(金融庁「無登録の海外所在業者による勧誘にご注意ください」)。消費者庁も、無登録業者とのFXについて「利益が出ても出金できない、返金がないなどの事例が報告されています」とし、海外の無登録業者は実態の把握が難しくトラブル時の追及は極めて困難だと注意している(消費者庁「無登録業者との外国為替証拠金取引(FX)にご注意ください!」)。
そして、うまい話のほうも一度たどっておきたい。国民生活センターは、FXで「必ず儲かる」ことはなく、そう説明されたら絶対に契約しないようにと明記している(国民生活センター「『必ず儲かる』と言われた。本当か」)。「絶対」「元本保証」と言い切る勧誘は、それ自体が一歩引いていい合図だ。
巻き込まれないための、ゆるい行動ルール
気合いで見抜こうとすると疲れるので、私は「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。一番効くのは、その場で口座を開かないこと。「いったん持ち帰って、業者を調べます」を口ぐせにしてしまえば、それだけで大半は防げる。そのうえで、
- 「損した実体験」で心を開かせる入り方を、一度立ち止まって眺める
- 親身な指導の終点が「この業者で口座を」になっていないか確かめる
- 案内された業者が金融庁に登録されているかを、自分の手で照らす
- 連絡先がLINEなど閉じた場所に移ったら、利害のない誰かに一度話す
この記事のまとめ
- 「無料で教える親身な先輩」の型は、共感 → 損した実体験 → 海外FX口座 → 自動売買 → LINE個別相談、という流れになりがち
- 確かめたいのは一つ、「で、その無料の出どころは?」――収入が紹介報酬や取引から出ているなら、こちらは生徒であると同時に客だ
対策は結局のところ、口座を急いで開かない・案内先の登録を自分で照らす・閉じた場所に移ったら第三者に話す。この3つに尽きる。最終的な判断は、警察・消費生活センターなど正規の窓口に委ねてほしい。