無料ブログの経歴紹介に挟まる勧誘の型を、年率と表示義務で確かめた
経歴を紹介する記事のはずなのに、本文の合間に、紹介されている本人とは関係のない広告が何度も差し込まれている——そういう記事を見かけることがある。差し込まれる広告は「億り人が資産の増やし方を無料で教えてくれるマンツーマンレッスン」といった文言で、そこには「約半年で資金が7.7倍を超えた」という体験談めいた数字が添えられている。特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、この広告の作られ方をお金の流れと公的データで調べた。
型を、広告の差し込み方で分解する
個別の事業者名は伏せる。だが、寄せられた広告の作りを並べると、共通する組み立てが見えてくる。経歴紹介記事を入口にする型については、以前にも別の角度から調べたことがある。実在のエコノミストの経歴紹介記事が、無関係な「億り人の無料レッスン」への入口に変わる型を、リンクの流れで調べたという記事だ。今回はその中身を、広告の差し込み方という切り口であらためて見ていく。
体裁:中立に見える経歴紹介記事を入口にする
見出しは「◯◯氏の経歴」「著名な相場師の歩み」といった、一見すると人物紹介やニュースの体裁を取る。読者は広告だと身構えずに読み進める。だが本文の途中から、紹介対象とは無関係な話題が挟まってくる。
紹介記事という中立な体裁は、警戒を下げるための入口として機能している、と私は見ている。警察庁SOS47「SNS型投資詐欺」は「著名人が無料で投資教室を開催したり、確実に利益が出る投資話を無料で教えたりすることは基本的にありません」と注意を促している。無料で教えてくれる、という誘い文句そのものが、まず疑ってよい起点になる。
差し込み:本文の合間に無関係な広告を繰り返し挿入する
紹介記事の本文は数段落単位で区切られ、その合間に「億り人が資産の増やし方を無料で教えてくれるマンツーマンレッスン」といった広告枠が繰り返し挿入される。紹介されている人物の話とは何のつながりもない。
1回だけなら読み飛ばせる。だが同じ広告が本文の合間に何度も現れると、読者の記憶には「経歴紹介」と「無料レッスン」が同じ記事の中の出来事として残る。差し込みの回数を増やすこと自体が、警戒を薄める仕掛けになっている、と考えられる。
演出:「半年で7.7倍」という断定的な実績を口コミ形式で添える
広告には「約半年で資金が7.7倍を超えた」という体験談めいた数字が添えられている。誰の体験か、いつのどの取引かは分からない。口コミという体裁を取っているだけで、検証できる材料は示されていない。
将来の利益を断定して見せる言い回しは、公的機関が繰り返し注意を促してきた典型と重なる。金融庁「詐欺的な投資勧誘等にご注意ください!」は「上場確実ですので、必ず儲かります! 元本も保証します!」という言い回しを、注意を促す典型例として挙げている。「7.7倍」という数字も、この距離感で見ておきたい。
将来どうなるか分からないことを言い切って見せる手口には、法律上の呼び名もある。消費者庁『逐条解説 消費者契約法』(消費者庁)は、こうした勧誘を「将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること」と説明している。噛みくだけば、「先のことは誰にも分からないのに、必ずこうなると言い切って誤解させること」だ。倍率が具体的であるほど、根拠を確かめたい。
「半年で7.7倍」を数字でほどく——年率に直すと、何が見えるか
広告に添えられた実績には、こう書かれている。「約半年で資金7.7倍超え」。うまい数字は、まず割り算で確かめたい。
6か月で7.7倍ということは、毎月同じ率で増え続けたと仮定すると、7.7の6乗根を計算すればよい。7.7の6乗根はおよそ1.4053。ひと月でおよそ4割強ずつ、資金が増え続けたという計算になる。
この伸び率が、もし1年間そのまま続いたとすると、1.4053を12回かける計算になる。これは6か月分を2回繰り返す形なので、7.7を2乗すればよい。7.7に7.7を掛けるとおよそ59.29——元手が1年でおよそ59.3倍になる計算だ。年間の増加率に直すと、59.29から1を引いた、およそ5829%という年率になる。
この年率を、実際の長期投資の実績と並べてみる。金融庁の資料によれば、「つみたてNISAについて」(金融庁・2017年6月14日)では「20年の保有期間では、投資収益率2~8%(年率)に収斂。」とされている。1985年以降、毎月同額ずつ国内外の株式・債券を買い付けた実績にもとづく数字だ。年率5829%は、この2〜8%と並べると、上限の8%と比べても700倍以上という、同じ「年率」という単位で並べても埋めがたい開きになる。
ここで一つ、断っておきたい。この年率換算は、広告文言「約半年で資金7.7倍超え」をもとに、当研究所が独自に試算したものである。当該広告主や本人が公式に示した数値ではなく、実際の運用実績を示すものでもない。毎月同率で複利——増えた分にまた同じ率がかかっていく計算——で回ったと仮定した場合の概算であり、四捨五入も含む。
本当にそれほどの利回りを継続して出せる手法があるなら、無料で人に教えて回るより、黙って自分の資金で回しているはずだ。で、その利益の出どころは?
なぜ無料ブログサービスは、この広告を量産しやすいのか
ここまで見てきた広告には、共通する舞台がある。無料で使えるブログサービス上に、経歴紹介記事の体裁を借りて、「億り人が資産の増やし方を無料で教える」という勧誘が差し込まれる、という構造だ。個別のサービス名・人物名は伏せる。なぜこの舞台がこれほど都合よく使われるのか、法律の側から確かめておきたい。
特定商取引法が求める「氏名・住所・電話番号」の表示義務
通信販売の広告には、法律で決まった最低限の表示事項がある。消費者庁「特定商取引法ガイド」通信販売の広告表示義務(特定商取引法第11条)は、「販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に…事項を表示しなければならない」と定めている。
この「事項」には、販売業者・役務提供事業者の氏名(名称)・住所・電話番号が含まれる。つまり、無料でレッスンを教える、という体裁の広告であっても、誰が提供しているのかを名乗る義務は、本来免除されない。
屋号やサイト名だけでは足りない、という基準
では、サイトの運営者名やペンネームが書いてあれば、それで足りるのか。消費者庁「特定商取引法ガイド」Q&A(Q16)は、そこに明確な基準を置いている。「販売業者又は役務提供事業者の『氏名又は名称』については、個人事業者の場合は戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を…記載することを要し、通称や屋号、サイト名のみを表示することは認められません」。屋号やサイト名だけでは足りない、ということだ。
同じQ&AのQ17は、住所・電話番号まで表示させる理由も説明している。「特定商取引法に基づき広告に表示することとされている住所及び電話番号は、事業を行う上で、トラブルが生じた場合や消費者から問合せがある場合の対応等に備えるためのものです」。つまり、これらは飾りではなく、トラブルの際に連絡が取れることを保証するための情報だ、ということになる。
無料ブログという媒体構造が、量産と匿名化を後押しする
無料ブログサービスは、誰でもアカウント一つで記事を量産できる。経歴紹介という体裁を整えるコストも低い。だからこそ、同じ型の広告を数を打って差し込みやすい、という土壌になる、と私は見ている。
これは通販サイトを対象にした指摘だが、参考になる。国民生活センター「その通販サイト本物ですか!?」(2023年1月30日)は、「特定商取引法では、販売業者は通販サイトに、販売業者の名称、住所、電話番号を原則記載しなければならない旨が定められています。しかし、偽サイトにはこれらの情報が記載されていなかったり…」と指摘している。表示が欠けていること自体が、実在性を疑う手がかりになる、という点は、無料ブログ上の広告にも類推できるのではないか、と考えている。
ただし、無料ブログサービスの悪用構造そのものを対象にした公的統計は、確認できる範囲では見当たらない。ここは私見の域を出ない、と正直に断っておく。無料のブログサービス自体は、個人が情報発信をする場として広く使われている、真っ当な仕組みだ。問題は媒体の善し悪しではない。そこに表示義務を満たさない広告が混ぜ込まれる余地がある、という一点に尽きる。
確認しておきたい3つのこと
経歴紹介記事の内容そのものを疑う必要はない。確かめたいのは、その記事と差し込まれた広告が、本当につながっているかどうかだ。
確認1:経歴紹介記事と広告のリンク先は、同じ運営者か
経歴紹介記事のURLと、差し込まれている広告のリンク先のURLを見比べてみてほしい。運営者やドメインが違うなら、紹介されている本人がその広告に関与している根拠はない。
確認2:広告主の氏名・住所・電話番号は、どこかに表示されているか
広告のリンク先や運営者情報のページに、氏名(名称)・住所・電話番号が具体的に書かれているかを確認する。屋号やサイト名だけしか書かれていないなら、特定商取引法が求める表示義務を満たしたことにはならない。
確認3:「半年で7.7倍」のような数字は、年率に直しても現実的か
体験談めいた倍率が出てきたら、月次・年率に直して考える癖をつけておきたい。桁違いの利回りになるなら、それ自体が立ち止まる理由になる。
すでに申し込み・登録してしまった方へ
すでに無料レッスンに登録し、その先で入金やソフトの購入を勧められている方へ。気持ちは分かる。だがまず一つだけ確認してほしい。お金を取り戻すことより先に、これ以上払わない・借りないことを優先してほしい。
- 追加の支払い・追加の借入れをいったん止める
- 勧誘のやり取り(画面・メッセージ・広告のスクリーンショット)を記録として残す
- すでに支払った場合は、決済元(クレジット会社・銀行・電子マネー事業者等)に連絡する
- 消費者ホットライン「188」や最寄りの消費生活センターに相談する
この記事のまとめ
- 経歴紹介記事という中立な体裁の中に、無関係な「無料レッスン」広告が繰り返し差し込まれ、断定的な実績数字が添えられる型がある
- 「半年で7.7倍」を年率に直すとおよそ5829%相当となり、金融庁のつみたてNISAデータが示す年率2〜8%とは桁違いの開きがある(編集部独自試算)
- 広告主の氏名・住所・電話番号という特定商取引法の表示義務は、屋号やサイト名だけでは満たされない
確かめるべきは、経歴の立派さではなく、差し込まれた広告の数字と、その運営者が誰なのかだ。