「AIで稼げる」無料セミナーが高額スクール契約に変わる型を、お金の流れで調べた
「AIで稼げる」「SNS運用で稼げる」とうたう無料セミナーや動画広告がある。経歴の華やかな講師が、これからはAIだ、今のうちに学べば先行者になれる、と語る。入口は確かにタダだ。ところが申し込んだ先の個別面談で、いつのまにか数十万円の「スクール代」「サポート代」を求められ、手元になければ消費者金融で借りてでも、と勧められる——そういう相談が、各地の消費生活センターに寄せられている。今号はこの「無料セミナーから高額契約へ」の流れを、特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、お金の動きと公的データから分解しておきたい。
なぜ入口を「無料セミナー」にするのか
商売である以上、どこかで誰かが代金を払っている。無料で人を集めて成り立つなら、その原資は別の場所から出ているはずだ。で、その利益の出どころは?——この型では、無料セミナーは「客を集めるための入口」であって、本当の売り物はその先の有料スクールにある。入口を限りなく軽くして人を集め、関心を示した人だけを個別面談へ進める。だから最初の接触は、どうしても「無料・簡単・今だけ」の定型になる。
国民生活センターによれば、こうした副業・もうけ話をめぐる相談は実際に増えている。「スキマ時間に気軽に稼げる等とうたう副業トラブル!」(国民生活センター・2024年9月4日)では、相談件数が2020年度の1,341件から2023年度には3,694件へ、平均契約購入金額も2020年度の約28万円から2023年度には約76万円へと上がっていると整理されている。入口が無料でも、出口の金額はこれだけ大きくなりうる、ということだ。
型を、お金の流れで分解する
個別の案件名は伏せる。だが、寄せられた話を並べると、流れはおおむね同じ順序をたどる。順を追って見ていく。
入口:華やかな経歴と「今のうちにAIを」
短い動画広告やSNSで、「現役で結果を出している」「有名な経歴の講師」という見せ方をする。経歴そのものは本当のこともある。ただ、経歴が華やかであることと、勧誘の現場で起きることが適切かどうかは、分けて見たほうがいい。判断材料が「すごそうな人だから」「無料だから」だけになっている時点で、一度立ち止まりたい。
申込:無料セミナーから「個別面談」へ
「無料セミナー」と称して動画やオンライン説明会へ誘導し、その場で個別の相談・面談を案内する。セミナーがあらかじめ録画されたもので、質問しても用意された答えしか返ってこない、という形になっていることもある。仕事や講座の中身、そして金額は、たいていこの個別面談に進むまで出てこない。文字や書面で先に残さず、通話や面談で初めて明かすのは、後から見比べられにくいからだ、と私は見ている。
面談:そこで初めて数十万円と「借りてでも」
ここで初めて代金が出てくる。数十万円の「スクール代」「サポートプラン代」を求め、足りなければ分割や借入れを勧める。消費者庁「簡単な副業をうたい高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起」(2025年6月26日)では、「消費者金融から借入申請をしてください」「借りられた分だけでプランを進めましょう」「このプランなら、月50万が当たり前になります」などと借入れを勧める手口が紹介されている。手元の支払い能力を超える金額を、借金で埋めさせて契約に持ち込む——ここがこの型のいちばん重い局面である。
「月50万が当たり前」を数字でほどく
うますぎる数字は、まず割り算で確かめたい。仮に受講して本当に毎月50万円が手に入るなら、数十万円の受講料は1〜2か月で回収でき、あとは増える一方という計算になる。そんな手法が本当にあるなら、人を募って教える必要があるのか。黙って自分で回していれば、生徒を集めるより早く増えるはずだ。それをわざわざ教え、しかも借金してでも申し込め、と急かす。で、その利益の出どころは?——売り手の利益が「生徒が稼いだ成果」ではなく「受講料そのもの」から出ているのだとしたら、生徒が増えるほど儲かるのは売り手のほうだ、ということになる。
なお、「必ず稼げる」「月50万が当たり前」といった、将来の不確実なことを断定して見せる勧誘には、法律上の問題もある。消費者契約法(e-Gov法令検索)は、将来の収入など変動が不確実な事項について「断定的判断」を提供して消費者を誤認させた場合、その契約を取り消せると定めている。言い切る数字ほど、根拠を確かめたい。
なぜ「借りてでも」と言われ、若い人ほど狙われるのか
先ほどの平均契約金額、約76万円という数字を思い出してほしい。これは、多くの人にとって貯金からすぐ出せる額ではない。出せない額だからこそ、相手は「借りてでも」と言う。借入れまで案内して初めて、この型は成立する。消費者庁も2024年2月29日の注意喚起で、副業の勧誘から消費者金融での借入れへ誘導する手口を警告している。本来、払えるかどうかを超える契約をその場でさせない、というのが筋のはずだが、この型は逆に、払えない人に借りさせる方向へ動く。
狙われやすいのは、まとまった貯えがなく、将来の不安と「学べば変われる」という期待を同時に抱えた人だ。とりわけ若い世代に向いた勧誘が目立つ。消費者庁の令和5年版消費者白書でも、18歳・19歳の相談で「内職・副業等のもうけ話」に関するものが上位にみられたと記されている。国民生活センターも、若者向けの注意喚起で「『もうかる』はずが、残ったのは借金」という情報商材トラブルを取り上げている。残ったのは借金、という言葉は重い。
すでに契約・入金してしまった方へ
もう申し込んでしまった、あるいは借りて払ってしまった方へ。気持ちは分かるが、まず一つだけ。お金を取り戻すこと以上に、これ以上払わない・これ以上借りないことが先だ。追加の請求やコースの追加を勧められても、そこで止めてほしい。順序はこうなる。
- 追加の支払い・追加の借入れをいったん止める
- セミナーや面談の録音・チャット・契約画面など、やり取りの記録を残す
- 支払った決済元(クレジット会社・消費者金融)に状況を連絡する
- 消費者ホットライン「188」や最寄りの消費生活センターに相談する
「仕事や収入が得られる」と勧めて費用を負担させる契約には、クーリング・オフ(一定期間内の契約解除)が使える場合がある。消費者庁の特定商取引法ガイド(業務提供誘引販売取引)では、法定の書面を受け取った日から数えて20日以内であれば、書面または電磁的記録で契約を解除できるとされている。ただし、契約の形によって期間や要件は変わる。ここは自分で判断するより、窓口に事実を伝えて確認してほしい。相談先がすぐに分からなければ、消費者ホットライン「188」から最寄りの窓口につないでもらえる。私には個別の解決はできない。判断は正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。
この記事のまとめ
- 「AIで稼げる」無料セミナーは入口にすぎず、本当の売り物は個別面談の先の高額スクールにあることが多い
- 講師の華やかさと無料で判断を軽くし、書面に残らない面談で数十万円と借金の話に持ち込むのが型。平均契約額は約76万円に上る
- 「月50万が当たり前」は割り算で確かめる。本当に稼げるなら、人に教えて受講料を取らず自分で回しているはずだ
払ってしまったら、取り戻すより先に「これ以上払わない・借りない」。記録を残し、決済元に連絡し、188へ相談する。この順序を覚えておいてほしい。