「完全無料の副業」が電話で高額ツール販売に変わる型を、お金の流れで調べた
「完全無料」「スマホで簡単」とうたう副業の広告がある。入口は確かにタダだ。ところが申し込んだ先で、いつのまにか20万円を超える「ツール代」を求められ、足りなければ消費者金融で借りるよう勧められる——そういう相談が、各地の消費生活センターに数多く寄せられている。今号はこの「無料から高額へ」の流れを、案件を名指しせずに、お金の動きとして分解しておきたい。
なぜ入口を「無料」にするのか
商売である以上、どこかで誰かが代金を払っている。無料で配って成り立つなら、その原資は別の場所から出ているはずだ。で、その利益の出どころは?——副業勧誘の型では、無料は「客を集めるための入口」であって、本当の売り物はその先にある。入口を限りなく軽くして人を集め、反応した人だけを電話へ進める。効率を優先した結果、最初の接触はどうしても「無料・簡単・スマホ」の定型になる。
国民生活センターによれば、こうした副業をめぐる相談は実際に増えている。「スキマ時間に気軽に稼げる等とうたう副業トラブル!」(国民生活センター・2024年9月4日)では、相談件数が2020年度の1,341件から2023年度には3,694件へ、平均契約購入金額も2020年度の約28万円から2023年度には約76万円へと上がっていると整理されている。入口が無料でも、出口の金額はこれだけ大きくなりうる、ということだ。
型を、お金の流れで分解する
個別の案件名は伏せる。だが、寄せられた話を並べると、流れはおおむね同じ順序をたどる。順を追って見ていく。
入口:完全無料・スマホで簡単
「ランキングサイト」「比較サイト」の体裁を借りて、信頼できそうな見た目をつくる。そこから「無料登録」へ進ませる。ここまでは一円もかからない。判断材料が「無料だから」だけになっている時点で、一度立ち止まりたい。
申込:個人情報と「支払い能力」を聞かれる
登録時に名前・電話番号・年代を取り、その先で「借入はあるか」「滞納はないか」を尋ねてくることがある。仕事の説明にこれらは要らないはずの情報だ。つまり、いくらまで払えるか・いくらまで借りられるかを、先に測られている可能性がある。消費者庁「遠隔操作アプリを用いて、消費者金融業者から高額な借入れをさせる副業サポート事業者に関する注意喚起」(2024年2月29日)でも、副業の勧誘から消費者金融での借入れへ誘導する手口が警告されている。
電話:仕事の中身が、そこで初めて出る
「無料電話レクチャー」と称して通話へ誘導し、仕事の実態をそこで初めて明かす。競馬・競艇などの予想を売る話だった、というのも珍しくない。文字で残らない電話を使うのは、後から検証されにくいからだ、と私は見ている。聞く前に書面で内容を出してくれない時点で、これも黄信号でいい。
請求:20万円と「平均◯%回収」という数字
ここで初めて代金が出てくる。20万円を超える「ツール代」「サポートプラン代」を求め、「平均130〜180%回収」といった景気のいい数字を根拠に押す。手元になければ借りてでも、と勧める。消費者庁「簡単な副業をうたい高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起」(2025年6月26日)でも、「月50万が当たり前」「儲けが出なければ返金保証がある」と勧誘されて高額契約をしたが報酬は得られなかった、という相談が紹介されている。
「平均130〜180%回収」を数字でほどく
うますぎる数字は、まず割り算で確かめたい。仮に1回ごとに本当に平均150%——つまり1.5倍——で戻ってくるなら、10万円が15万円、それを回せば次は22.5万円、その次は約33.8万円。1.5を回し続ければ、元手はあっという間に膨らむ計算になる。
では、そんな手法を本当に持っているなら、20万円のツールを他人に売る必要があるのか。黙って自分で回していれば、人を募るより早く増えるはずだ。それをわざわざ売り、しかも借金してでも買え、と急かす。で、その利益の出どころは?——売り手の利益が「予想の的中」ではなく「ツールの販売代金」から出ているのだとしたら、買い手が増えるほど儲かるのは売り手のほうだ、ということになる。
なお、「必ず儲かる」「平均◯%回収」といった、将来の不確実なことを断定して見せる勧誘には、法律上の問題もある。消費者契約法(e-Gov法令検索)は、将来の変動が不確実な事項について「断定的判断を提供」して消費者を誤認させた場合、その契約を取り消せると定めている。言い切る数字ほど、根拠を確かめたい。
すでに契約・入金してしまった方へ
もう払ってしまった、あるいは借りて払ってしまった方へ。気持ちは分かるが、まず一つだけ。お金を取り戻すこと以上に、これ以上払わない・これ以上借りないことが先だ。追加の請求が来ても、そこで止めてほしい。順序はこうなる。
- 追加の支払い・追加の借入れをいったん止める
- 勧誘の録音・チャット・契約画面など、やり取りの記録を残す
- 支払った決済元(クレジット会社・消費者金融)に状況を連絡する
- 消費者ホットライン「188」や最寄りの消費生活センターに相談する
電話勧誘で契約した場合、特定商取引法(消費者庁・電話勧誘販売)では、法定の書面を受け取った日から数えて8日以内であれば、書面または電磁的記録でクーリング・オフ(契約解除)ができるとされている。期間や要件は契約の形で変わるため、ここは自分で確かめるより、窓口に事実を伝えて確認してほしい。相談先がすぐに分からなければ、消費者ホットライン「188」(消費者庁)から最寄りの窓口につないでもらえる。私には個別の解決はできない。判断は正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。
この記事のまとめ
- 「完全無料の副業」は入口にすぎず、本当の売り物は電話の先の高額ツールにあることが多い
- 無料・簡単で判断を軽くし、支払い能力を測り、文字に残らない電話で20万円超と借金の話に持ち込むのが型
- 「平均◯%回収」は割り算で確かめる。本当に増えるなら、人に売らず自分で回しているはずだ
払ってしまったら、取り戻すより先に「これ以上払わない・借りない」。記録を残し、決済元に連絡し、188へ相談する。この順序を覚えておいてほしい。