「特定商取引法に基づく表記」が見当たらない副業サイト──“相手が誰か”をまず確かめる
「1日2万円」「初期費用は無料」とうたう副業の案内を見て、登録ボタンの前で一度手を止めたとき、私はいつも同じところを先に見る。ページの一番下だ。そこに「特定商取引法に基づく表記」があるか、事業者の名前・住所・電話番号が書いてあるか。特定の案件を名指しはしない。案件をまたいで繰り返し現れる一つの型として、ここを最初の関所にしている。
なぜ「儲かるか」より先に「相手は誰か」を見るのか
うまい話かどうかを最初に考えると、人はだいたい金額の大きさに目を奪われる。だが私は順序を逆にしている。まず確かめるのは「この案内を出しているのは、どこの誰か」だ。理由は単純で、相手が分からないものは、後から問い合わせることも、苦情を言うことも、返金を求めることもできないからである。
取引でいちばん怖いのは、儲からないことそのものより、儲からなかったときに連絡が取れない相手だということ。だから入口で「誰か」が分からない時点で、その先の数字を検討する必要すら、まだない。
「特定商取引法に基づく表記」は何を約束させる仕組みか
通信販売――つまりネットやLINEを介してモノやサービス、ノウハウを売る取引には、法律で表示を義務づけられた項目がある。難しく身構える必要はない。要するに「売る側が誰なのかを名乗れ」という決まりだ。
消費者庁の特定商取引法ガイドは、通信販売の広告について「事業者の氏名(名称)、住所及び電話番号を表示する必要があります」とし、さらに「『電話番号』については確実に連絡を取れる番号を表示することが必要です」と書いている。インターネット通販のルールでも同じく、事業者の氏名・住所・電話番号などを表示しなければならない、とされている。
つまり「特定商取引法に基づく表記」は、買う側にとっては「困ったときに、どこの誰に連絡すればいいか」をあらかじめ開示させる仕組みだ。これが無い、あるいはメールフォームだけで電話番号が無い、住所が雑居ビルの一室で会社名が出てこない――そういう入口は、法律が求める最低限の自己紹介を省いている、と見ていい。
無料の登録の先に置かれているもの
この型の運びは、だいたい決まっている。無料・簡単・高収入で関心を引き、LINEや会員登録で連絡先を押さえ、登録後に届くのは仕事そのものではなく「あなたに合う副業を紹介します」という案内。そして最後に、有料のマニュアルやサポートプランの契約を勧められる。入口の「無料」と、出口の「有料」は、別の場所に置かれている。
消費者庁は令和7年、簡単な副業をうたって高額なサポートプランを契約させた事業者について、「初心者でも簡単に稼げる」「月50万が当たり前になる」「儲けが出なければ返金保証がある」などと勧誘していたとして注意を呼びかけている。「初心者向け」「返金保証」は、不安を消して契約を急がせる言葉として使われることがある。
では、その「紹介」で誰が得をするのか。紹介がただの親切でないなら、紹介した側には成果報酬が入ると考えるのが自然だ。すると勧められる中身は「あなたに最も合うもの」ではなく、「最も紹介料が高いもの」に寄りやすい。で、その利益の出どころは――あなたが副業で稼いだ金からか、それともあなたが払うプラン代からか。
数字でほどく
まず「1日2万円」を割り算でほどく。1日2万円なら、月20日で40万円、年にすれば700万円を超える。登録するだけでこれが出るなら、相手は人を募らず、黙って自分で回しているはずだ。人を集めて募集している時点で、その収入の出どころは「副業の成果」ではなく「集まった人」の側にあるのではないか、と一度疑っていい。
相談の数も見ておきたい。国民生活センターによれば、簡単な副業をうたうトラブルの相談件数は2020年末の1,341件から2023年末には3,694件へと増え、2024年7月時点で平均契約購入金額は約106万円に達している。「無料で始めた」はずが、平均で100万円を超える金額を払う形になっている、という数字だ。
情報商材全体で見ても、国民生活センターに寄せられた相談は2022年度に約7,000件、2023年度に6,256件と、高い水準が続いている。これらは、相手が誰かを確かめないまま入口を通った後で起きた、という共通点を持つ。
確かめるときのチェックリスト
- 「特定商取引法に基づく表記」のページがあり、事業者名・住所・電話番号がそろっている
- 電話番号が実在し、かけて確実につながる(フォームやLINEだけで済ませていない)
- 「無料」なのは登録までで、その先に有料プランが置かれていないかを確かめた
- 「初心者でも簡単」「必ず」「返金保証」など、言い切る言葉に急かされていない
- 登録の前に、利害のない家族や友人に一度話してみた
すでに登録・入金してしまった人へ
もう登録し、有料プランの代金を払ってしまった方へ。気持ちは分かるが、まず一つだけ。お金を取り戻すこと以上に、これ以上払わないことが先だ。「あと少し払えば回収できる」と追加を求められても、そこで止めてほしい。順序はこうなる。
- ①追加で払わない
- ②やり取り(広告・LINE・契約画面・振込履歴)の記録を残す
- ③クレジットカードや決済元に、契約内容と支払いを止められないか相談する
- ④公的窓口に相談する
相談先は、消費者ホットライン「188」。お住まいの地域の消費生活センターにつないでくれる。警察に相談したいときは、警察相談専用電話「#9110」がある。私には個別の解決はできない。最終的な判断は、こうした正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。
この記事のまとめ
- 副業や通販の入口では「儲かるか」より先に「相手は誰か」を見る。確かめる場所はページ末尾の「特定商取引法に基づく表記」
- 事業者名・住所・電話番号のどれかが欠けていたら、法律が求める自己紹介を省いた相手として、登録の前に一拍おく
無料の登録の先には、有料プランが別の場所に置かれていることが多い。確かめる順序は、相手が誰かを見る・数字を割り算する・その場で決めない。迷えば消費者ホットライン「188」へ。