第458号黒岩検閲済 2026年8月11日 発行(不定期刊/前号:8月11日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
詐欺アラート研究所詐欺アラート研究所の角印

FRAUD ALERT LAB ── 投資詐欺・悪質商法 調査報

一面縮刷版・記事一覧 > 先渡し金トラップ×担当者蒸発の型
調査報告|先渡し金トラップ×担当者蒸発の型

海外人材紹介になりすます求人メールが、試用期間中に先渡し金を配って信用させたあと、研修タスクの先払いを求め、応じると連絡が取れなくなる型を、国民生活センター・警察庁・金融庁の一次情報で調べた

公開 最終更新 読了 約6分
黒岩警戒度

求人サイトや人材紹介会社の名を借りたメールから始まり、LINEへ移ったあと、担当者を名乗る相手が「試用期間中の報酬」として、こちらより先に少額を振り込んでくることがある。ありがたい話に見えるが、そこで作られた信用は、後で別の形になって返ってくる。特定の事業者は名指しせず、この「先渡し金」と、その先で応答が途絶える型を、国民生活センター・警察庁・金融庁の一次情報とお金の流れで調べた。

型を、お金の流れで分解する

個別の事業者名は伏せる。求人サイトを装うメールの入口や、LINEでの担当者交代という中継点については、前号(第448号)ですでに仕組みを調べた。今号はその先――向こうが先に払ってくるという珍しい段階と、支払いに応じたあとに何が起きるか、という出口に焦点を当てる。

中継点:試用期間中の「先渡し金」という逆手

連絡先はLINEに移り、しばらくやり取りが続いたあと、担当者が「試用期間中の報酬」として先にいくらかを振り込んでくる。ここまでは、こちらは一円も払っていない。だからこそ警戒がゆるむ。国民生活センターは2026年5月の注意喚起で、「最初に少額の報酬が得られる場合でも、その後に、『より高額報酬を得るため』や『タスク失敗の連帯責任』などと称して、保証金や手数料といった金銭の振り込みを要求されるケースが発生しています」と説明している(国民生活センター「簡単なタスクで稼げるとうたう副業トラブルに注意!」2026年)。先に金をもらったという事実は、その後の要求を疑わない理由にはならない、と私は見ている。

「先にもらった」の意味 向こうが先に払ってくる場面は、通常の取引ではまず起きない。ここで生まれた信用は、あとで大きな金額を求めるための布石だと考えておいたほうがいい。

出口:研修タスクの先払いと、そのあとの沈黙

信用ができたところで、「本採用には研修タスクの完了が必要」として、こちらが先に振り込むよう求められる。消費者庁は別の副業事案について、「実際には消費者が支払った参加費用が返金されることも、提示された高額の報酬が支払われることもありません」と注意を促している(消費者庁「『タスク副業』で報酬が支払われるとうたい、実際には高額を送金させる事業者に関する注意喚起」2025年)。振り込んだあと、担当者からの返信が途絶える、あるいは案内されていたサイト自体につながらなくなる、という相談も見られる。払った時点から先は、こちらが確認できることがほとんどなくなる――それが、この型の一番厄介なところだと思う。

危険信号を並べる

すべてが同じ言葉で来るわけではないが、共通する部品はある。警察庁は、正規の求人サイトに実態の不明な求人が紛れ込む問題について、「応募又は契約時に匿名性の高い通信アプリをインストールするように指示される」「本人だけでなく、家族、友人等の個人情報を執拗に要求される」といった特徴を挙げ、心当たりがあれば「連絡を続けることなく、警察に相談してください」としている(警察庁「正規の求人サイトに掲載されている有害求人情報に注意!!」)。想定されている被害の中身は別の犯罪だが、LINE等への早い誘導や個人情報を執拗に求める姿勢という部品は、今回の型とも重なる、と私は見ている。

数字でほどく

この種の副業トラブルの相談件数と既払額の伸びは、前々号(第450号)で詳しく調べた。ここでは続きだけ触れておく。国民生活センターの集計では、2024年度は7月31日の時点ですでに950件の相談が寄せられている(国民生活センター、前掲)。単純に月割りで計算すると、通年では前年度の3,694件を超えるペースになる。件数だけでなく、増え方そのものが速くなっている、ということだと私は読んでいる。

迷ったとき用の一言 向こうが先に払ってきた時点で、一度立ち止まってほしい。それが「今度はこちらが先に払う番だ」という流れへの入口になっていないか、確かめてから進めても遅くはない。

すでに払ってしまった方へ

先渡し金を受け取り、研修タスクの費用を振り込んだあと連絡が取れなくなった――その状態になったら、まず振込先の金融機関へ連絡してほしい。金融庁は、「振り込め詐欺等の被害にあってしまった場合は、警察と振込先の金融機関に連絡してください」と案内している(金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」)。振り込め詐欺救済法という制度があり、振込先の口座が犯罪に利用されたと金融機関が認めれば、口座の名義人の権利を消滅させたうえで、被害者に分配金が支払われる仕組みになっている。ただし支払いまでは、少なくとも半年以上かかるのが一般的だという。すぐには戻らないという前提で、まずは記録を残し、相談窓口につないでほしい。

申し込み前に確かめておきたいこと

気合いで見抜こうとすると疲れるので、私はいつも「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。次の点を確かめてほしい。

  • 担当者から先に振り込まれた報酬があっても、それを信用の証拠にしない
  • 「研修」「本採用」を理由に、こちらが先に振り込む場面が出た時点で進めない
  • LINEで匿名性の高いアプリへの誘導や、家族・友人の個人情報を執拗に求められたら距離を取る
  • 振り込んだあと連絡が途絶えたら、まず振込先の金融機関と警察に連絡する
  • 消費者ホットライン「188」、警察相談専用電話「#9110」を控えておく

この記事のまとめ

  • 求人メールからLINEへ誘導され、試用期間中に先渡しで少額の報酬を受け取って信用させる型がある
  • 信用ができたあと、研修タスクの先払いを求められ、応じると連絡が取れなくなることがある
  • 振り込んでしまった場合は、振込先の金融機関・警察への連絡と、振り込め詐欺救済法による分配金制度の利用を検討してほしい

対策は、向こうが先に払ってくる場面ほど疑ってかかること、そしてこちらが先に払う場面が出た時点で止まることに尽きる。入口・中継点の詳しい仕組みは、前号(第448号)・前々号(第450号)も合わせて確認してほしい。