実在の確認できない「凄腕トレーダー」が過去データだけの実績で売り込む投資シグナルツール勧誘の型を、金融庁・警察庁の一次情報で調べた
動画の中で自分を「凄腕のフリートレーダー」と名乗り、CFD(現物を保有せず、価格の上がり下がりの差額だけをやり取りする取引)のシグナルツールを売り込む広告をいくつか見た。中身を確かめていくと、気になる点が二つ重なっていた。一つは、見せられている実績が過去データだけだったこと。もう一つは、そこに映っている本人の実在を、こちらの手では確かめようがなかったことだ。今号はこの件を洗った。特定のサービス名を名指しするつもりはない。この二つが重なったときに何が起きているのか、型として整理しておきたい。
見せられる実績が、過去データだけだった
まず一つ目。動画で示される好成績は、たいてい「バックテスト」と呼ばれるものだ。過去の値動きのデータに、いま売り込んでいる売買ルールをあとからあてはめ直し、「これだけ勝てていた」と計算し直した数字である。つまり、これから先の相場で本当に勝てるかどうかとは、別の話になる。
ちゃんとしたテストであれば、それなりの参考にはなる。ただ、過去データを使う以上、都合のいい期間・都合のいい条件だけを選んで「勝てて見える」形に作り込むこと自体は、技術的にいくらでもできてしまう。専門的にはカーブフィッティングと呼ばれるやり方だ。
これに対して、いまの相場でリアルタイムに売買した記録——フォワードテストと呼ばれるもの——は、作り込みがきかない。真っ当な売買システムなら、バックテストだけでなくフォワードの記録もあわせて示すのが筋だと私は思う。逆に言えば、フォワードの記録を出さず、バックテストの成績だけを繰り返し見せてくる場合は、まずそこで立ち止まっていい。
では、動画に映っている本人は誰なのか
気になった点はもう一つある。「凄腕のフリートレーダー」として動画に登場する本人の顔だ。無料で使えるAI生成画像の判定サービスにいくつか通してみると、「AI生成の可能性が高い」という判定が出るケースがあった。一枚だけならたまたまということもあるが、同一人物として使い回されている複数の画像で同じ傾向が出ると、単なる偶然とは考えにくくなる。
誤解のないように言っておくと、この手の判定がすべてを裏付けるわけではない。ただ、実在するかどうかを確かめる手立てがこちらにはなく、判定サービスも「疑わしい」と示している——その状態そのものが、すでに一つの材料だと私は見ている。
で、その利益の出どころは?
実績が過去データだけで、人物の実在も確かめられない。この二つが重なったとき、私がいつも聞きたくなるのはやはり同じ問いだ。で、その利益の出どころは?
この手の勧誘の多くは、シグナルツールそのものを売って終わりではない。ツールへの興味をきっかけにメールマガジンやLINEへ登録させ、そこから「もっと本質的な情報」「別の稼ぎ方」と称する、より高額な別の商材へ話をつなげていく。最初のツールは入口にすぎず、本当の商売は奥の情報商材にある——というのが、よく見かける型だ。
金融庁は、証券会社など登録を受けた金融商品取引業者に対して、「必ず値上がりする」といった断定的な言い方で勧誘することを金融商品取引法38条で禁じている。「この銘柄は絶対に値上がりします」といった言い方を典型例として挙げたうえで、こうした断定的判断の提供を投資者保護上の問題として明確に位置づけている(証券取引等監視委員会「投資者へのアドバイス」(金融庁))。個人が売るツールや情報商材に、この条文がそのままあてはまるわけではない。ただ、業界のルールとして「利益を言い切る勧誘」自体が明確に禁じられている、という事実は、判断材料として知っておいて損はないと私は思う。
その先の業者・口座も、確かめておきたい
この種のツールやシグナルは、その先で海外の無登録業者の口座開設へ誘導されるケースがある。金融庁は、SNSやメッセージアプリで届く投資の勧誘について、繰り返し注意を呼びかけている。「『自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる』などと言って、FX・バイナリーオプション・暗号資産等への投資を一方的に勧めてくるケースが以前より発生しています」「取引をした結果、『投資したお金が引き出せない』『出金の際に税金等の名目で高額な金銭を要求される』といったトラブルに巻き込まれたりするケースが生じています」(金融庁「『FX取引・暗号資産投資の勧誘』にご注意!!」)。友人・知人からの紹介であっても、たどり着く先の業者が日本の登録を受けていないなら、この注意はそのままあてはまる。私は、シグナルツールに興味を持った段階で、その先で案内される業者・口座の登録状況まで確認しておくことをすすめたい。
「著名なトレーダー」を騙る勧誘そのものも、型として増えている
実在するかどうか怪しい人物を前面に立てる勧誘は、今回に限った話ではない。警察庁は、著名人や専門家を騙るSNS上の投資勧誘について、次のように説明している。「著名人が無料で投資教室を開催したり、確実に利益が出る投資話を無料で教えたりすることは基本的にありません」(警察庁「SNS型投資詐欺」)。
警察庁が公表した令和7年の確定値では、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は3,257.4億円のうち1,834.3億円にのぼり、従来型の特殊詐欺(1,423.1億円)を上回っている(警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」)。「顔の見えるカリスマ」を演出する手口は、もはや例外ではなく、型として定着していると見ていい。
入金の前に、自分で確かめておきたいこと
- 見せられている実績が、過去データ(バックテスト)だけか、リアルタイムの記録(フォワードテスト)もあるかを確認する
- 顔写真や動画に映る人物について、他の場で本人確認が取れる情報(実名の登録、第三者からの言及など)があるか調べる
- 最終的に案内される取引業者・送金先が、金融庁に登録された業者かどうかを確認する
- ツールの勧誘の先に、別の情報商材やメルマガ・LINE登録が控えていないか、一歩引いて見る
この記事のまとめ
- 実績が「バックテストのみ」で、フォワードテストの記録が示されない場合は、まず立ち止まる
- 動画・写真に映る「開発者」の実在が確かめられない場合、AI生成の可能性も含めて疑ってよい
- この二つが重なったときは、その先の業者登録状況・誘導先の情報商材まで確認してから判断したい
対策は結局のところ、実績の裏付けと人物の実在、両方を自分で確かめる・その場で決めない、この2つに尽きる。すでに入金してしまった場合は、追加の支払いをまず止め、消費者ホットライン「188」や警察相談専用電話「#9110」、金融庁の金融サービス利用者相談室(0570-016811)など正規窓口に相談してほしい。