著名人の『逮捕』という創作記事とコールバック電話勧誘で進む、存在しない暗号資産自動売買アプリの型を、国民生活センター・金融庁の一次情報で調べた
また一つ、広告のクリックから始まる話を調べた。特定の事業者や個人は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、公的資料の数字と仕組みで調べた。今回の入り口はSNSの動画広告だった。タップすると、聞き覚えのある名前が並ぶニュース記事のような画面が開く。「生放送中に逮捕された」という見出しに、政財界や経済ニュースでおなじみの顔ぶれが、本人の関与なく何人も並んでいる。作り込まれてはいるが、たどっていくと、いつもの型に収まっていた。
「逮捕」という見出しは、なぜ本物に見えるのか
記事らしき画面には、既存の報道機関を思わせる体裁が使われている。著名人になりすます勧誘は、今に始まった話ではない。国民生活センターは2024年、「著名な投資家や経済学者等を名乗っていても、本人に無断で写真や氏名等を使用した勧誘が横行しています」と報道発表している(国民生活センター(2024年5月29日))。同資料によれば、この種の相談件数は前々年度の約9.6倍に増えているという。
金融庁も同様の傾向に注意を呼びかけている。「SNS(Facebook、Instagram等)上の偽アカウント・偽広告は著名人のアカウント・広告を装います」(金融庁)。名前や顔が出ているからといって、本人の関与を意味するわけではない。むしろ、名前が知られているほど、無断で使われやすいという逆説がある。
見る端末によって、開く画面が違う
今回の広告は、環境によって表示される内容が変わる作りだったという。この種の技術そのものに対する公的な定義は確認できなかったが、似た実例は特許庁委託の調査でも報告されている。「誘導先に関しては、スマートフォンでは当社ロゴマークが表示されるケースが多いが、PC端末ではロゴマークが表示されない場合がある」(JETRO・特許庁委託事業報告書(2025年3月))。同報告書は、なりすまし広告そのものが「急増しており」とも記している(前掲)。見る端末によって表示が変わるなら、広告を審査する側の画面と、実際に読者へ届く画面が、そもそも別物になっていてもおかしくない。
フォームの先に、電話がかかってくる
記事の先には、氏名・メールアドレス・電話番号を入力するフォームが置かれている。送信すると、折り返しの電話がかかってくる型だった。「本日締切」「先着◯名限定」と急がせる表示も、フォームの近くに置かれていた。急かされている時点で、いったん立ち止まっていい。電話口では、最低4万円程度からの入金を求められる例が見られた。金額の大小にかかわらず、電話番号を伝えた先で、その場で契約しないでほしい。
出金の段になって、また新しい名目が出てくる
そもそも、こうした無登録の自動売買サービスは、法律上の位置づけとして成立しない。国民生活センターは「日本の居住者を相手に、株取引やFX取引、暗号資産取引などの金融商品取引業・暗号資産交換業を行う者は、金融商品取引法または資金決済法に基づき、登録を受ける必要があります」と説明している(国民生活センター(2024年))。登録の有無は、金融庁のサイトで誰でも確かめられる。
登録のない相手とのやり取りがどうなるか、金融庁はこう注意を呼びかけている。「出金の拒否や法外な出金手数料を請求されたりするほか、これまで連絡が取れていたのに急に連絡が取れなくなるなどといったトラブルに遭ったという声が多く寄せられています」(金融庁「無登録業者との取引は要注意」)。国民生活センターに寄せられた別の相談では、「出金手数料900万円と、運用している海外の株式市場に税金1,300万円を支払わないと出金できないと言われた」という事例も報告されている(前掲・国民生活センター)。入金の名目は、出金の段になって初めて増えていく。正規の取引所では、こういうことは起きない。
数字で見る、SNS広告経由の勧誘
警察庁の統計によると、2025年上半期のSNS型投資詐欺は認知件数2,884件、被害額351.2億円だった。前年同期に比べれば件数・被害額とも減っているというが(警察庁(令和7年上半期))、それでも半年で300億円を超える規模が動いている、ということでもある。
同じ統計で、最初の接触ツールを見ると「Instagramが596件、LINEが422件、Facebookが337件と、これらのツールで全体の約半数を占める」とある(前掲・警察庁)。SNSの広告や投稿から始まる話が、いまも入り口の主流になっているという数字だ。
- 「逮捕」「緊急」の見出しほど、まず配信元をたどって確かめる
- 実績・肩書きは、自分の手で裏取りできるかどうかで判断する
- フォームに電話番号を入れたら、電話口ではその場で契約しない
- 出金の話が出た時点で、金融庁の登録業者検索で名前を確認する
- 迷ったら消費者ホットライン「188」(消費者庁)へ相談する
この記事のまとめ
- 著名人になりすました「逮捕」記事から、フォーム送信→電話勧誘へ進む型がある
- 見る端末によって表示が変わる広告があり、審査の目をすり抜けている可能性がある
- 出金の段になって、手数料や税金など新しい名目が出てくることがある
急かされたら、まず自分の手で確かめる時間を取り戻したい。