第392号黒岩検閲済 2026年7月26日 発行(不定期刊/前号:7月25日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
詐欺アラート研究所詐欺アラート研究所の角印

FRAUD ALERT LAB ── 投資詐欺・悪質商法 調査報

一面縮刷版・記事一覧 > 最低入金額後出し×出金直前スプレッド操作の型
調査報告|最低入金額後出し×出金直前スプレッド操作の型

「最低10ドルから」が口座開設後に数十倍へ変わり、出金直前にスプレッドが跳ねて止まる無登録海外FXの型を、金融庁・警察庁の一次情報で調べた

公開 最終更新 読了 約6分
黒岩警戒度

「最低10ドルから始められます」——最初にそう言われたので、お試しのつもりで少額を入れた。ところが口座を開いた後になって、「本格的に利益を出すには、最低でも数百ドルの入金が必要です」と、話がすり替わる。しかも、いざ出金しようとした段になると、なぜかそのタイミングでレートの値幅(スプレッド)が急に広がり、取引自体が止まってしまう——という相談をいくつか見た。入り口の金額が後から変わる件と、出金直前に価格が動く件。今号はこの二つを洗いました。(黒)

個別の企業名・アプリ名は挙げない。案件をまたいで現れる、勧誘の一つの型として見ていく。

「最低10ドルから」は、なぜ最初にそう言うのか

入る前のハードルが低いと聞けば、多くの人は「様子見のつもりで」財布を開く。10ドル程度なら、失っても致命傷にはならない——その油断こそが最初の関門だ。ところが実際に口座を開いてみると、「本格的に利益を出すには、最低でも○○ドルの入金が必要です」「このプランのままでは出金できません」と、当初の説明とは違う金額を提示されたという報告がある。安さで敷居を下げ、いったん財布を開かせてから、内側で条件を変える。この構造そのものが、まっとうな取引所の仕組みとは相容れない。

そもそも、その業者は日本の登録を受けているか

誘導先の取引アプリが、海外の会社を名乗るFX業者であるケースは多い。金融庁「無登録業者との取引は要注意!!~無登録業者との取引は高リスク~」は、「登録を受けていない(無登録)ということは? 日本の居住者を相手に、株取引やFX取引、暗号資産取引などの金融商品取引業・暗号資産交換業を行う者は、日本の法令に基づき、登録を受ける必要があります」と明記する。海外の会社名や、それらしいロゴが並んでいることは、登録の有無とは何の関係もない。金融庁は無登録で営業していた業者の名称を「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」でも公開している。誘われた業者名は、入金の前に必ず照らしておきたい。

「最低額」は、こちらへの約束ではない 広告に書かれた「最低○ドルから」は、あくまで最初の一歩を軽く見せるための数字だ。口座を開いた後にどんな条件を出されても構わない、というのが向こうの前提になっている。約束は、入り口の看板ではなく契約書にしか宿らない。

出金しようとした瞬間、なぜか価格が動く

この型の相談の中には、含み益が乗った状態で出金を申請した途端、対象銘柄のスプレッド(売値と買値の差)が普段の水準から大きく広がり、そのまま取引が止まって出金できなくなった、という報告がある。この「出金直前だけスプレッドが跳ねる」という具体的な現象そのものを名指しで扱った公的資料は見当たらなかったため、この部分は個別の観測情報として留めておきたい。ただし方向性ははっきりしている。金融庁は無登録業者について、「預けた資金を出金しようとしたときに、これまで出金ができていたにもかかわらず、出金の拒否や法外な出金手数料を請求されたりするほか、これまで連絡が取れていたのに急に連絡が取れなくなるなどといったトラブルに遭ったという声が多く寄せられています」と明言している。理由が「価格が動いたから」であれ「手数料が必要だから」であれ、出金を求めた瞬間にだけ新しい壁が現れる、という構図は同じだ。

SNSからLINEへ、という入り口の広さ

警察庁の確定値によれば、令和7年のSNS型投資・ロマンス詐欺は認知件数15,168件、被害額1,834.3億円にのぼる(警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」)。警察庁・SOS47「SNS型投資詐欺」は、SNSのダイレクトメッセージなどをきっかけに親しくなりLINE等へ誘導される流れと、「必ず儲かります」「投資のチャンスです」といった文言を典型例として挙げている。実際に、国民生活センターの見守り情報「SNS上の投資グループ内で勧誘されるFX取引に注意」では、LINEでの友達申請から投資グループへ誘い込まれ、出金の段になって「海外取引税として追加振込が必要」と言われた事例が報告されている。名目こそ違えど、出金の直前に新しい支払いや障害が発生する点は、今回見てきた「最低額の後出し」「スプレッドの急拡大」と根が同じだと私は見ている。

迷ったとき用の一言 「最初の説明」と「今の説明」が食い違った時点で、もう対等な取引ではない。金額であれ理由であれ、後出しされた条件は基本的に断っていい。

入る前に確認したいこと

  • 「最低○ドルから」という広告の金額と、実際に案内された入金額が一致しているか
  • 誘われた業者の名前を、金融庁「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」で確認したか
  • 出金の条件(手数料・追加入金・スプレッド等)が、契約時点で書面に明記されているか
  • SNSの個人アカウントから、いつの間にかLINEでの入金指示に切り替わっていないか

すでに入金してしまった方へ

すでに入金してしまった方へ。まず一つだけ言っておきたい。お金を取り戻すこと以上に、これ以上の追加入金や「出金のための手数料」に応じないことが先だ。

  • 「スプレッドが戻るまで待って」「追加入金すれば出金できる」と言われても、その場で払わない
  • 広告の文言・LINEのやり取り・取引画面のスクリーンショットを保存する
  • 相手の会社名・LINE ID・振込先口座を、わかる範囲で記録しておく
  • 消費者ホットライン「188」、緊急でない相談は警察相談専用電話「#9110」に相談する

私には個別の解決はできない。判断は正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。

この記事のまとめ

  • 「最低○ドルから」という入り口の安さは、口座開設後の条件変更を防ぐものではないこと
  • 「出金直前だけ何か新しい壁が現れる」という構図は、スプレッド急拡大でも追加手数料でも同じであること
  • 令和7年のSNS型投資・ロマンス詐欺は認知件数15,168件・被害額1,834.3億円に達しており、入口の多くはSNSからLINEへの誘導であること

で、その「最低額」は誰が守ってくれるのか。広告の数字でも、担当者の口約束でもない。契約に書かれていない条件は、いつでも向こうの都合で変わる。そう考えておいた方がいい。(黒)