どん底からの再起を語るYouTube動画が、運営情報を隠したまま複数のLINEグループへ渡り歩かせる型を、特定商取引法・警察庁の一次情報で調べた
「どん底から這い上がった」「今の総収益は◯億円」――そんな逆転劇のナレーションを乗せたYouTube動画を入口に、視聴者をLINEへ誘い込む型がある。特定の発信者・案件は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、この導線を洗ってみた。
どんな入り口なのか
型はだいたい共通している。過去の挫折や借金といった失敗をまず赤裸々に語り、そこからの逆転劇として「今の収益」を大きな数字で示す。感情を動かされた視聴者は続きが気になり、動画の概要欄に置かれたリンクを開く。その先にあるのは会社サイトではなく、たいていLINEへの登録ボタンだけである。
なお、こうした動画の投稿者自身が、説明欄に「音声や映像の一部はAIによって生成・加工されている」と明記しているケースも見受けられる。感動的な語り口そのものが、実在の体験と一致する保証にはならない、という前提は持っておきたい。
「会社名も連絡先も出てこない」導線について
この型で気になるのが、動画にも、その先のLINE登録ページにも、運営する事業者の名称・住所・電話番号がどこにも書かれていない点だ。通信販売の広告表示について、特定商取引法は事業者に一定の事項の表示を求めている。「個人事業者の場合には、氏名又は登記された商号、住所及び電話番号を表示する必要があります。また法人の場合には、名称、住所及び電話番号(さらに、インターネットで広告を行う場合には、代表者の氏名又は通信販売の業務の責任者の氏名)を表示する必要があります。」(消費者庁「通信販売広告について|特定商取引法ガイド」)
ただし同法には、広告面での表示を省略できる仕組みもある。「請求により、これらの事項を記載した書面を遅滞なく交付し、又はこれらの事項を記録した電磁的記録を遅滞なく提供する旨の表示をする場合には……これらの事項の一部を表示しないことができる。」(消費者庁「特定商取引法ガイド」逐条解説(特定商取引法第11条))つまり価格や連絡先を広告に一切書かないこと自体は、開示請求に応じる仕組みさえ整っていれば直ちに違法とは言えない。ただ、視聴者の側からすれば、LINEに登録する時点では運営の実態も総額も見えない、という事実は変わらない。
LINEを軸にした勧誘の実態を、統計で見る
LINEを軸にした勧誘導線がどれほど広がっているかは、警察庁の統計にも表れている。令和6年の「SNS型投資・ロマンス詐欺」では、当初の接触ツールは「インスタグラムが1,481件(23.1%)、LINEが1,120件(17.5%)、フェイスブックが997件(15.5%)」で全体の半数以上を占め、被害時の連絡ツールに限ると「LINEが5,829件(90.9%)」で9割に達している(警察庁「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」)。同年の認知件数は6,413件(前年比+182.4%)、被害額は871.1億円(同+213.4%)にのぼる(同資料)。
「複数のLINEを使い分ける」こと自体が問題視された公表事例もある。消費者庁が令和4年に公表した副業マニュアル勧誘に関する注意喚起では、摘発対象の6事業者について「一部の事業者を除き、それぞれ、勧誘LINEアカウントを複数使用していました」と指摘されている(消費者庁「『副業』の『マニュアル』を消費者に購入させた事業者に関する注意喚起」(令和4年4月13日))。同じ資料は「簡単な作業をするだけで『誰でも1日当たり数万円を稼ぐことができる』などというLINEのメッセージによる勧誘」について、各地の消費生活センター等に多数の相談が寄せられていたとしている(同資料)。窓口を複数に分けることは、1つのアカウントが通報や規約違反で使えなくなっても勧誘を続けられる、という運営側の都合に見える。
数字でほどく:無料の先で相談件数が示すもの
この型に近い「無料の入口→高額な有料契約」という流れは、国民生活センターも継続して注意喚起している。2021年の発表では「以前から『スマホで簡単にもうかる』『不労所得で豊かに生活ができる』とお金もうけのノウハウを伝える等と勧誘され、情報商材やノウハウを教わるサポートの契約をしてトラブルになったという相談が寄せられています」としたうえで、「最近では、近年利用者が増えている『オンラインサロン』を、ノウハウを伝えるツールまたはサロン自体をもうける手段として利用している手口がみられます」と、入口の形が情報商材からオンラインサロンへ広がってきたことを指摘している(国民生活センター「新たな“もうけ話トラブル”に注意−オンラインサロンで稼ぐ!?−」(令和3年7月1日))。
相談の母数そのものも小さくない。国民生活センターの集計では、情報商材に関する相談件数は2022年度7,000件、2023年度6,256件、2024年度4,118件と推移し、2025年度も5月末時点で262件(前年同期517件)が寄せられている(国民生活センター「情報商材」相談件数統計)。件数自体は減少傾向にあるものの、入口の形を変えながら同じ構造の相談が今も一定数寄せられている、という見方ができる。
- 動画・登録ページのどこかに、運営者の社名・住所・電話番号が書かれているか確認したか
- 登録後、案内されるまま別のLINEグループへ移っていないか振り返ったか
- 語られている「実績」が、自分の手で裏取りできる数字かどうかを考えたか
- その場で申し込まず、いったん持ち帰って運営元を検索してみたか
この記事のまとめ
- 逆転劇のYouTube動画を入口にLINEへ誘い込む型では、運営者の社名・住所・連絡先が書かれないまま話が進むことが多い
- LINEを軸にした勧誘は警察庁・消費者庁の統計でも件数の大きさが裏付けられており、複数アカウントの使い分けが公表事例でも指摘されている
で、その運営者の名前はどこに書いてある? LINEに登録する前に、一度探してみてほしい。