第330号黒岩検閲済 2026年7月12日 発行(不定期刊/前号:7月12日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
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調査報告|AI人材不安煽り×無料相談後出し価格の型

"AIに乗り遅れる"という不安を煽るSNS広告のスクールが、無料相談で初めて金額を出す型を、消費者契約法の"不安をあおる告知"規定で調べた

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黒岩警戒度

「明日からの仕事に使えるAIスキルを、今のうちに」——そう不安を刺激する言葉を添えたSNS広告のスクールを見かける。特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、その不安の煽り方とお金の流れの両面から調べておきたい。

広告の多くには「無理な勧誘は一切ありません」という一文も添えられている。だが、その言葉と、無料相談の場で実際に起きることは、必ずしも同じではない。今号はこの「不安で入口を作り、無料相談で金額を出す」という型を、消費者契約法の規定から分解する。

なぜ「乗り遅れる不安」が入口になるのか

「AIを使えるかどうかで差がつく」という話自体は、根拠のないものではない。ただ、その根拠のある不安と、契約を急がせるための不安の煽りは、別のものだ。広告が煽るのは前者の顔をした後者であることがある、と私は見ている。

不安は、比較する時間や相談する相手を奪う効果を持つ。「今のうちに」「乗り遅れる前に」という言葉が入口に置かれるのは、たぶん偶然ではない。

型を、不安の作り方とお金の流れで分解する

入口:「このままでは取り残される」という危機感

ChatGPTやClaudeといった生成AIが仕事の現場で使われ始めている、という事実そのものは広く報じられている。広告は、この事実を土台にしながら「今学ばなければ、あなたは取り残される」という個人向けの危機感へ変換する。事実の紹介と、不安の刺激は、地続きに見えて実は別の作業だ。

中間:「無理な勧誘はありません」と明記された無料相談

「無理な勧誘はありません」と広告に書かれていても、それは無料相談の場で金額提示や即決を求められないことを保証する言葉ではない。私が見る限り、この一文はしばしば、勧誘の有無そのものではなく「強引ではない態度」を約束しているにすぎない。

出口:無料相談で初めて出る、数十万円のプラン

広告の段階では価格が書かれず、無料相談・カウンセリングを受けた個別の場でだけ、短期講座で10万円台、長期コースで数十万円というプランが提示される運びがある。読者はそこで初めて、自分が何にいくら払うのかを知ることになる。

この型の核 不安で急がせておいて、「無理な勧誘はしていない」と言う。矛盾しているようで、実は両立する。不安をあおる行為そのものが、事業者の側からは「勧誘」ではなく「情報提供」に見えているからだ。読者の側は、不安の煽りと勧誘を分けて受け止めてほしい。

数字でほどく:消費者契約法が名指しする「不安をあおる告知」

2018年の改正で、消費者契約法に「不安をあおる告知」という取消権が加わった。消費者庁の説明資料によれば、消費者が「社会生活上の経験が乏しいことから」進学・就職・生計等の「願望の実現に過大な不安を抱いていること」を事業者が知りながら、「その不安をあおり、消費者契約の目的となるものが願望の実現に必要である旨を告げる」ことで消費者が困惑して契約した場合、その契約は取り消せるとされている。

同資料が挙げる例はこうだ。「就活中の学生の、自分はほかの学生と比べて劣っており、このままでは就職できないという不安」を、事業者が知りながら勧誘する場合。私はこれを読んで、就活の不安も、AIに置いていかれる不安も、形としては同じ型に収まると考えている。社会生活上の経験が乏しいかどうかは年齢では決まらず、「中高年であっても該当し得る」ともこの資料は明記している。

ただし、合理的な根拠に基づいて説明する場合はこの規定の対象外だ。事実に基づく啓発と、不安の煽りの境目は、どこにあるのか。私は、その説明が「あなたは取り残される」という個人への断定に踏み込んでいるかどうかを、一つの目安にしている。

「時間を与えない」話法も、行政が名指ししている

不安を煽ったあとに続くのが、考える時間を奪う話法だ。厚生労働省の資料は、教育訓練給付金に関する不適正な勧誘の例として「教育訓練給付金の申請期限が迫っている」「教育訓練給付金の枠が決まっていて、残りがわずかである。早く申し込まないと間に合わない」などと「考える時間を与えず、その場で契約させようとする」手口に注意を促している。給付金を使わないコースであっても、「今日中なら」「この枠は今月まで」という運びは、同じ効果を狙ったものだと見ていい。

「無料カウンセリング」自体が、増えている相談の型

国民生活センターが2025年8月に公表した集計によれば、2024年度の消費生活相談件数は91.0万件で、前年度から約2万件増加した。増加が目立った項目として同資料が挙げるのが「医療サービス(美容整形の無料カウンセリング時に高額な契約を勧誘されたという相談など)」だ。分野は違っても、「無料の個別相談が、高額契約の入口になる」という運び自体は、国が集計の中で名指ししている型だと言っていい。

迷ったとき用の一言 「今のうちに、というお話でしたが、一晩考えて明日お返事してもいいですか」。この一言に難色を示されたら、それ自体が一つの答えだと思う。健全な話なら、一晩置いたところで内容は変わらない。
  • 「乗り遅れる」「取り残される」という言葉が、自分個人への断定になっていないか確かめる
  • 「無理な勧誘はありません」の一文は、価格提示や即決を求めないことの保証ではないと理解しておく
  • 「今日中」「今月まで」と急がされたら、いったんその場を離れて考える時間を自分で作る
  • 金額は無料相談の場で聞くだけで終わらせず、書面でもらって持ち帰る

この記事のまとめ

  • 「AIに乗り遅れる」という不安の煽りと、価格を無料相談まで伏せる運びは、セットで現れやすい型
  • 消費者契約法は「不安をあおる告知」による契約を取り消せると定めており、就活生の例と同じ構造がAIスキル領域にも当てはまりうる
  • 「無料カウンセリングから高額契約へ」という運び自体、国の統計が増加要因として名指ししている

うまい話は、まず数字でほどく。不安をあおられたと感じたら、一晩置いて、誰か第三者に話してみてほしい。(黒)