卒業生数と大手企業導入実績を掲げるAIスキル講座の広告が、給付金で自己負担が減ると説明する型を、厚労省の注意喚起で確かめた
「卒業生◯万人」「大手企業への導入実績」という数字と、残業時間や年収の変化を見せるBefore/After画像を並べた、AIスキル講座の広告を見かける。特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、実績の見せ方とお金の流れの両面から調べておきたい。
広告の終盤には、「給付金を使えば自己負担は実質◯万円まで下がる」という一文が添えられていることが多い。今号はこの「実績で信頼をつくってから、給付金で自己負担感を下げる」という型を、厚生労働省が公表している一次資料から分解する。
なぜ「実績の数字」が並ぶのか
卒業生の人数、導入企業の数、Before/After画像——どれも個人の感想ではなく、大きな数字と分かりやすい変化を見せる作りになっている。数字や写真は動かしがたい事実のように見えるぶん、疑わずに受け取りやすい。私はそこにまず注目しておきたい。
型を、お金の流れと説明の仕方で分解する
入口:卒業生数・導入実績・Before/After画像
「卒業生◯万人」「大手企業への導入実績多数」のような規模を示す数字と、理想の働き方をイメージさせるBefore/After画像が、SNS広告の入口に置かれる。個々の数字の真偽を私が確かめる立場にはないが、この種の実績表示には守るべきルールがある。消費者庁の説明によれば、「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示」は景品表示法上の優良誤認表示にあたり、消費者庁は表示の根拠となる資料の提出を事業者に求めることができる。数字を見せられたら、その根拠を尋ねてよい、ということでもある。
中間:無料カウンセリングへ
実績とBefore/Afterで「自分もこうなれるかもしれない」という期待をつくったあと、案内は無料カウンセリングへ進む。教育訓練給付金の事例そのものではないが、国民生活センターが報告した別の事例でも「Web会議で就活のアドバイスをもらうはずが、高額なプログラミングスクールを勧誘された」というケースがあり、無料の個別相談という場そのものが、契約の入口になりやすい運びだと分かる。
出口:「給付金で自己負担が減る」という説明
無料カウンセリングの終盤、「一般教育訓練給付金なら20%、専門実践教育訓練給付金なら最大80%・上限64万円が戻るので、自己負担は実質◯万円まで下がる」という説明が出てくる。ここで確かめておきたいのは、それが先に安くなる値引きなのか、あとから一部が戻る精算なのか、という一点だ。
数字でほどく:厚労省が名指しで問題を指摘している説明
厚生労働省は「教育訓練給付制度に関する不適正な勧誘にご注意ください」という資料で、まさにこの言い回しに注意を促している。厚労省の資料によれば「教育訓練給付金は、皆様が自らの雇用の安定・早期の就職のために指定講座の中から選んで講座を受講し、適正に修了した場合に支給されるものであり、申込みの時点で先に支給されるものではありません」という。加えて「教育訓練給付金の支給対象者には、一定の要件があり、誰でも給付を受けられるものではありません」とも明記している。
つまり、「給付金があるから自己負担が実質◯万円」という説明は、支給を確約できない条件を、確定した割引であるかのように語っている可能性がある。専門実践教育訓練給付金の最大80%(上限64万円)にしても、厚労省の案内では受講中に50%、資格取得や就職でさらに20%、修了後に賃金が5%以上上がって初めて残り10%が上乗せされる、条件付きの3段階になっている。90万円のコースなら、80%で72万円が戻る計算に見えるが、年間上限の64万円を差し引くと、手元に残る負担は26万円になる。条件を一つでも満たせなければ、還付はその手前で止まる。
では、その26万円、あるいは条件を満たせなかった場合の負担は、無料カウンセリングの時点でどこまで説明されているだろうか。
「卒業生数」「導入実績」をどう受け止めるか
「卒業生◯万人」「1,200社以上が選んだ」のような実績数値も、消費者庁の説明にある優良誤認表示の考え方に触れうる。私はその数字の裏付けを確かめる立場にないが、根拠を尋ねることはできる。Before/After画像についても同じで、個人の一例が、誰にでも起きる結果であるとは限らない。実績の数字は信頼の入口であって、契約の判断材料そのものではない、と私は考えている。
- 卒業生数・導入実績・Before/After画像は、あくまで一例であり自分に当てはまる保証ではないと考える
- 「給付金で自己負担が減る」という説明は、値引きではなく後払いの精算であることを確認する
- 最大80%等の給付率には、資格取得・就職・賃金上昇などの条件が付くことを確認する
- 条件を満たせなかった場合の実質負担額を、その場ではなく書面で確認する
この記事のまとめ
- 卒業生数・導入実績・Before/After画像は入口の信頼づくりであり、契約判断の根拠にはならない
- 「給付金で自己負担が減る」は先取りの値引きではなく、条件付きの後払い精算
- 厚労省自身がこの種の説明を「不適正な勧誘」として名指しで注意喚起している
うまい話は、まず数字でほどく。それでも迷ったら、条件を満たせなかった場合の負担額を書面で確認してほしい。(黒)