給付金の還付率を強調するスクール広告が、価格を伏せた無料相談から数十万円のプラン契約へ進む型を、特定継続的役務提供の規制で調べた
「給付金を使えば、実質お得に受けられます」——そんな一文を添えたスクール広告を見かける。特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れる一つの型として、お金の流れで調べておきたい。
広告の本文には、具体的な受講料が書かれていないことが多い。金額が分かるのは、無料相談やカウンセリングを受けたあとだ。今号はこの「還付率は先出し、総額は後出し」という型を、制度の仕組みから分解する。
なぜ「価格は無料相談で」が入口になるのか
語学教室でも資格講座でもITスクールでも、この種の広告にはよく似た運びがある。まず「1,200社が選んだ」のような実績数値や、「給付金で最大80%還付」という制度の還付率を大きく見せる。金額そのものは、広告の段階では書かない。
金額を先に出さない理由は、私には分からない。ただ、無料相談という一対一の場でだけ金額を出す運びは、他社と比べる時間や持ち帰って考える時間を削る効果を持つ。私はそこに注目しておきたい。
型を、お金の流れで分解する
入口:還付率を掲げる広告
広告の見出しには「一般教育訓練給付金で20%還付」「専門実践教育訓練給付金で最大80%還付」といった、厚生労働省「教育訓練給付金」に実在する制度の数字がそのまま使われる。数字自体に誤りはない。だが、これは値引きではなく「先に払って、あとから一部が戻る」という精算の話だ。その点は、還付率の見出しだけでは伝わりにくい。
申込:「無理な勧誘はない」と明記された無料相談
「無理な勧誘は一切ありません」と広告に書かれていても、それは勧誘の有無そのものとは別の話だ。無料相談を経たあとにコース案内が続く運び自体は、その広告文言と矛盾しない。
提示:無料相談で初めて出る、数十万円のプラン
短期の講座は10万円台から、給付金の対象になる長期コースは45万円から90万円台まで、という価格帯が無料相談の場で初めて示されるケースがある。読者はそこで初めて、還付率の分母となる総額を知ることになる。
数字でほどく:「最大80%還付」は「8割引き」ではない
専門実践教育訓練給付金は、最大80%・上限64万円が支給される制度だが、最初から80%が出るわけではない。厚生労働省の案内によれば、受講中にまず50%、資格取得や就職などの条件を満たしてさらに20%、賃金が5%以上上がってようやく残り10%が上乗せされる、条件付きの3段階になっている。
仮に90万円のコースで考えてみる。80%なら72万円が戻る計算に見えるが、年間の上限は64万円と決まっている。差し引くと、手元に残る負担は90万円から64万円を引いた26万円になる。しかも、この64万円を受け取るには、資格取得・就職・賃金上昇という条件をすべて満たす必要がある。条件を満たせなければ、還付は50%や70%の段階で止まる。
では、条件を満たせなかった場合の26万円、あるいはそれ以上の負担は、契約の時点でどこまで説明されているだろうか。
この種の講座は「特定継続的役務提供」に当たる場合がある
消費者庁「特定継続的役務提供」には、エステティック・美容医療・語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室・結婚相手紹介サービスの7つが指定されている。このうちパソコン教室は「電子計算機又はワードプロセッサーの操作に関する知識又は技術の教授」と定義されており、契約期間が2か月を超え、金額が5万円を超える場合に対象となる。
対象になれば、書面を受け取った日から8日以内ならクーリング・オフができる。8日を過ぎても中途解約は可能で、事業者が請求できる損害賠償の上限は消費者庁のQ&Aによれば「5万円又は契約残額の20%に相当する額のいずれか低い額」と決められている。数十万円規模の講座であっても、無条件に全額を払い続ける義務があるわけではない。
「実績社数」をどう受け止めるか
「1,200社以上が選んだ」のような実績数値も、この種の広告ではよく見る。消費者庁の説明では、「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示」は景品表示法上の優良誤認表示にあたり、消費者庁は表示の根拠となる資料の提出を事業者に求めることができる。私はその実績を自分で検証できる立場にない。数字だけで安心せず、根拠を尋ねてみることはできる。
実際、国民生活センターは「Webサイトで無料の相談窓口だと謳いながら、実は悪質な業者による高額な契約に誘導してしまうという相談が寄せられている」と、無料相談を入口にした契約トラブルについて注意喚起している。「無料」を先に見せる運び自体が、継続して見張られている型だと言っていいだろう。
すでに申し込んでしまった方、迷っている方へ
まだ契約していないなら、その場で決めないでほしい。総額と、給付金を差し引いたあとの実質負担額を、書面でもらって持ち帰る。それだけで、比較する時間を自分の手に取り戻せる。
- 広告の還付率ではなく、契約書面に書かれた総額そのものを確認する
- 給付金の条件(資格取得・就職・賃金上昇など)を満たせなかった場合の負担額を確認する
- 契約が「特定継続的役務提供」に当たるか、クーリング・オフや中途解約の条項があるかを確認する
- 契約後8日以内であれば、書面か電磁的記録でクーリング・オフができることを覚えておく
この記事のまとめ
- 還付率を先に見せて総額を後回しにする型は、無料相談などの個別の場でだけ金額が出る運びになりやすい
- 「最大80%還付」は条件付きの3段階精算であり、無条件の8割引きではない
- 契約期間2か月超・金額5万円超の教室契約は、特定継続的役務提供としてクーリング・オフや中途解約の規制対象になりうる
うまい話は、まず数字でほどく。それでも迷ったら、契約書面を持ち帰って、誰か第三者に見せてほしい。(黒)