日経平均急落のニュース記事に、円建ての実現益とパーセントの利益率で単位が違う実績が同居する型を、表示の根拠で確かめた
今号はこの件を洗った。「日経平均が急落した」というだけの市況ニュース記事を読み進めると、途中から「利用者が実際に利益を手にしている」とうたう有料の株情報サービスの紹介や、「勝率80%超」を掲げるAI投資ツールの紹介、無料登録を促す一文が差し込まれていることがある。特定の事業者は名指しせず、案件をまたいで現れるこの「市況ニュース×複数の勧誘×単位のばらばらな実績表示」という型を、確かめられる資料の範囲で調べた。
中立な市況ニュースが、なぜ入れ物に選ばれるのか
日経平均やTOPIXの値動きは、誰にとっても中立な事実だ。数字を淡々と伝える記事を読んでいる間、読み手は「情報を読んでいる」という構えのまま、その先に置かれた勧誘的な一文にも同じ姿勢で目を通してしまいやすい。広告であることを明示せずに広告的な表示をする行為について、消費者庁は「自己の供給する商品又は役務の取引に関する表示について、その内容の決定に関与した事業者(いわゆる広告主)です」と説明し、令和5年10月1日からステルスマーケティングを景品表示法違反と定めている。同庁のQ&Aは「アフィリエイトサイトの表示内容全体からみて、一般消費者にとって『事業者の表示』であることが明瞭となっているかどうかが重要となります」とも述べている。1本の記事の中に複数の勧誘先が並び、どれが誰の表示かを読者が判別しづらい構成は、この考え方が問題視する状態に近いと私は見ている。
実績の単位がそろっていない、という型
今号で見た型では、実績の見せ方が勧誘先ごとに違っていた。一方は「獲得利益◯万円」「株価◯倍」という円建て・倍率の表示。もう一方は「利益率◯◯◯%」という、三桁に達するパーセンテージの表示。円建ての実現益と、パーセンテージの利益率は、そのままでは比較できない数字だ。読者は「どちらがどれだけ儲かる話なのか」を、自分の頭では確かめようがない。
金融庁の監督指針は、投資助言業者が個別銘柄を掲げて広告する場合について、「当該投資助言業者に有利なもののみを掲げる表示をしていないか」を確認するよう求めている。都合のよい実績だけを切り取って見せる表示は、単位が円建てであれパーセントであれ、この着眼点に照らして注意したい構成だ。同庁はさらに、「セミナーで勉強すれば、勝てるようになる」「自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる」という言い回しを、注意すべき勧誘文句として名指ししている。
断定的な利益の提示は、どう見られているか
有価証券の値動きについて断定的な判断を示して勧誘する行為は、証券取引等監視委員会が「有価証券の価格等が必ず騰貴する、又は必ず下落するといった断定的な判断を示して勧誘することを禁止しています」と説明する、金融商品取引法38条が定める禁止行為にあたりうる。条文は「顧客に対し、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げて金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為」を禁じている。で、その利益の出どころは? 記事中の実績表ではなく、その先で実際に助言や売買を行う相手が、何を根拠にその数字を示しているかだ。
無料登録という入口
こうした記事の末尾には、無料での情報提供や登録を促す一文が置かれることも多い。無料であること自体は問題ではない。ただ、その先で何が起きるかは、登録した後にしか分からない。国民生活センターの記録には、「100万円が1億円になったとの体験談が掲載されていたので興味を持ち、メッセージアプリへ登録した」という相談事例が残っている。検証しようのない体験談・実績表示が、登録という次の一歩を後押ししている構図は、今号で見た型とも重なる。
- 実績は円建てか、パーセントか。単位をそろえて比較できるか確かめたか
- 実績の母数・対象期間が書かれているか
- 投資助言・投資顧問を名乗るなら、金融庁の登録を受けているか確認したか
- 無料登録の先で何が起きるかを、登録前に予測できるか
数字で見る、この型に注意したい理由
印象だけの話ではないことを、数字で見ておく。警察庁の暫定値では、SNS型投資詐欺の被害額は令和8年3月末までの累計で456.1億円、前年同期比+326.0億円で、特殊詐欺全体の被害額の48.6%を占めるという。国民生活センターは、著名人を名乗る・つながりを示す金融商品勧誘の相談件数が「2022年度と比べて約9.6倍と急増しています」と発表しており、件数は2021年度52件、2022年度170件、2023年度1,629件と増え続けている。市況ニュースの体裁を借りた勧誘そのものを対象にした統計は、今号の調査では見つからなかった。ただ、入口の形が変わっても、その先にある勧誘という中身は、この統計が示す領域と地続きだと私は見ている。
この記事のまとめ
- 円建ての実現益とパーセントの利益率など、単位のそろわない実績が1本の市況ニュース記事に同居する型がある
- 著名人便乗を含むSNS投資勧誘の相談件数は2021年度52件から2023年度1,629件へ約9.6倍に急増している(国民生活センター)
で、その実績は、何と何を比べた数字なのか。まずそこを確かめてほしい。