「無料で配る」自動売買ツールが、海外の未登録口座の開設を条件にする型を、紹介報酬の仕組みで調べた
「ツール自体は無料です」という自動売買ツールの相談が、ここのところ続けて届いている。金の話より先に、口座の話から入ってくるのが今号の型だ。ゴールド(金)相場に特化した自動売買、といった触れ込みが多いが、案件の名前はどれでもいい。中身の流れを追ってみたら、いくつかの共通点が見えた。
無料の「EA」が、なぜ最初に口座の話をするのか
相談の多くは、だいたい同じ順番で進む。まずSNSや無料ブログで「自動売買ツールを無料配布中」という案内を見る。次にLINEへ登録すると、担当を名乗る人物が現れる。そして「このツールを使うには、指定の証券口座を開いてほしい」と言われる。案内される口座は、日本の金融庁に登録のない海外業者であることが多い。ツールの代金を求められるより先に、口座開設という一手間が挟まる。ここが今号の入口だ。
ツールは無料でも、収益の出どころは別にある
気前がいい話に見える。だが、無料で配って運営側は何を得るのか、と考えると仕組みが少し見えてくる。多くの場合、紹介した口座の取引量に応じて運営側が紹介手数料(業界では「IB報酬」と呼ばれることが多い)を受け取る。つまりツールそのものではなく、口座を作らせて取引させることが収益源になっている、という構造だ。正直に書いておくと、この「紹介手数料」という言葉自体を金融庁や消費者庁が公式に定義した資料は、私が調べた範囲では見当たらなかった。ただし、友人・知人からの紹介を経由して無登録業者へ誘導される構図そのものについては、金融庁が繰り返し注意を促している。
金融庁「『FX取引・暗号資産投資の勧誘』にご注意!!」は、「それが友人・知人からの勧誘・紹介であったとしても、取引する業者が『日本で登録を受けていない違法な業者』であったり、『詐欺等をしているおそれ』もあります」と述べている。無料で配る道具に、口座開設という条件がついた時点で、私はもう無料ではないと見ている。
海外の未登録業者というだけで、なぜ注意が必要なのか
「海外の業者だから」という理由だけで危ないわけではない。問題は登録の有無だ。金融庁「無登録業者との取引は要注意!!」は、無登録業者について「投資者等の保護のための態勢が確保されているか当局では確認できず」と注意している。噛みくだくと、こういうことだ。日本で登録を受けた業者なら、金融庁や財務局が監督し、何かあれば行政処分などの対応を取れる。無登録の海外業者には、その手が届きにくい。
証券取引等監視委員会の職員が執筆した解説記事も、同じ点をはっきり書いている。「無登録業者が金融商品取引業として詐欺的な投資勧誘等を行った場合には…行政(金融庁や財務省地方財務局)の監督権限が及ばず、投資者保護規定に基づく処分等の対応をとることが困難な場合があります」(証券取引等監視委員会「SNS等を用いた無登録業者による投資商品の勧誘等に関する注意喚起」)。出金を拒まれても、連絡が取れなくなっても、こちらから頼れる先が限られる。それが「無登録」という一語の重さだと思う。金融庁は無登録業者の名称も一覧で公表している(金融庁「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」)。案内された業者名で、まず照らしてみてほしい。
実績は「見せられる」だけで、確かめられない
もう一つ、共通する型がある。実績の見せ方だ。動画や画像で「勝っている口座」を見せられるが、外部からは検証できない。特定商取引法は、通信販売の広告について「著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない」と定めている(消費者庁「特定商取引に関する法律・逐条解説」第12条)。
加えて、通信販売の広告には事業者の氏名・住所・電話番号を表示する義務があり、同解説は「私書箱を表示しても、このような場所を表示したことにはならない」ともしている。ツールを配る「担当者」が、実在の事務所も電話番号も名乗らないなら、私はその時点を最初の赤信号だと見る。
数字で見る、SNS発の投資勧誘
最後に、この型がどれくらいの規模で起きているかを見ておきたい。警察庁の集計(暫定値)では、SNS型投資詐欺の認知件数は9,538件(前年比+3,125件、+48.7%)、被害額は1,274.7億円(前年比+403.6億円、+46.3%)にのぼる(警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」)。当初の接触手段は広告とダイレクトメッセージで全体の約8割を占めるという。今号の型のように、無料ツールの広告からLINEへ、というルートは典型の一つと言っていいだろう。国民生活センターも、SNSやLINEの投資グループを通じて海外業者への口座開設を勧める手口を実際に取り上げている(国民生活センター「SNS上の投資グループで勧誘される詐欺的なFX取引トラブル」)。
気合いで見抜こうとすると疲れるので、私は「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。以下、確かめてほしいことを並べておく。
- 案内された口座の業者名を、金融庁の登録業者一覧・無登録業者一覧と照らしてみる
- ツールの「無料」の対価が何なのか(紹介手数料・口座手数料等)を自分の言葉で説明できるか確かめる
- 担当者の名前・ツール名で検索し、過去の別名やトラブルが出てこないか見る
- 見せられた実績(動画・画像)を、自分の手で再現・検証できるかどうかで判断する
- 事業者の氏名・住所・電話番号が広告に明記されているか確認する
この記事のまとめ
- 「無料で配る」EAの多くは、対価を紹介手数料(口座開設・取引量)に置いている型がある
- 海外の未登録業者は、出金トラブルが起きても行政の監督が及びにくい
- 実績は動画・画像だけでは検証できない。事業者表示の有無も併せて見る
対策は結局のところ、口座を作る前に登録の有無を確かめる・対価の出どころを自分の言葉で説明できるか試す。この2つに尽きる。