「今の生活に+30万円」──物販スクールの無料セミナーが、価格を伏せたまま入会金と仕入れ資金の二重負担へ進ませる型を、特商法の表示義務で調べた
「今の生活に+30万円の収入の柱を」。SNSの広告で、そんな物販の無料セミナーを見かける。中古の服やブランド品を安く仕入れて高く売る、いわゆる「せどり」を教えるという触れ込みだ。仕入れ値と売値の実例が並び、未経験からでも学べると案内している。広告のページを隅々まで見ても、金額はどこにも出てこない。今号で扱うのは、特定のスクールや運営会社ではない。無料のセミナーを入口に据え、価格を最後まで伏せたまま、入会金と、さらに別枠の仕入れ資金という二段構えの費用へ進ませる——この、物販スクール勧誘の型である。
この型の骨格──「無料」の先に、二段の費用が待っている
広告の作りは、いつも似ている。安く仕入れた品が高く売れた実例、達成率を示す数字、未経験からの成功談。ここまでは、まっとうな物販の話としてもおかしくない。ただ、メールアドレスと電話番号を入力してLINEに登録し、60分ほどの無料セミナーを受けたところで、初めて本題が出てくる。数十万円から百万円規模の入会金である。しかも、費用はそこで終わらない。「仕入れ資金として一定額を用意できない人には向かない」という一文が、広告に添えられていることがある。入会金と仕入れ資金、この二つを合わせて初めて、スタートラインに立てる金額になる。二段構えの費用、というのが今号の見立てだ。
で、価格を書かない広告は合法なのか──特定商取引法の表示義務で調べる
無料セミナーの案内ページに、金額が一つも出てこないことに、私は引っかかった。調べてみると、通信販売の広告には、そもそも表示すべき事項が法律で決まっている。特定商取引法第11条は「販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の……販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは……次の事項を表示しなければならない」とし、一号に「役務の対価」を、二号に「対価の支払の時期及び方法」を挙げている(消費者庁「特定商取引に関する法律の解説」、条文は特定商取引法第11条)。さらに、事業者の氏名・住所とあわせて「電話番号」も表示事項の一つで、消費者庁は「発信専用の番号で消費者側から架電しても一切つながらない等のような場合は、確実に連絡が取れる番号とはいえない」と釘を刺している(同解説)。値の一部を省略できる例外はあるが、価格そのものを広告からまるごと消してよい、という話ではない。「無料セミナーで初めて金額がわかる」広告を見たら、私はまずこの条文を思い出すことにしている。で、その利益の出どころは?──契約前に比べさせない設計こそが、答えの一部だと思う。
「92%が成果」「顧客満足度No.1」をどう読むか
広告には、達成率やNo.1のバッジがよく添えられている。数字は説得力を持つが、中身を精査する必要がある、というのが消費者庁の立場だ。令和6年9月の実態調査報告書は「No.1表示は……合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には……不当表示として景品表示法上問題となる」とし、主観的評価によるNo.1表示が合理的根拠を持つには「①比較する商品等が適切に選定されていること②調査対象者が適切に選定されていること③調査が公平な方法で実施されていること④表示内容と調査結果が適切に対応していること」の四条件を満たす必要があると示している(消費者庁表示対策課「No.1表示に関する実態調査報告書」令和6年9月26日)。同じ考え方は、達成率を示す高評価%表示にもあてはまる。実際の利用者全体を調べたのか、それとも印象を尋ねただけなのか。数字を見たら、その調査方法をたずねてみてほしい。答えに詰まるようなら、数字のほうが答えだ。
クーリング・オフの線引き──なぜこの契約に法定の8日間がないのか
高額な契約と聞くと、クーリング・オフで解除できると思う人もいるだろう。ただ、この制度は無条件にどんな契約にも及ぶわけではない。法定のクーリング・オフが保障される特定継続的役務提供は、政令で指定された7分野──エステティック・美容医療・語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室・結婚相手紹介サービス──に限られている(消費者庁「特定継続的役務提供の制度の概要について」内閣府規制改革推進会議提出資料、2020年)。物販ノウハウを教えるスクールは、この7類型に直接は含まれない。したがって、同じ消費者保護規定の対象には原則ならないと解される。ただし、電話で勧誘されて契約すれば電話勧誘販売として、呼び出されて対面で契約すればアポイントメントセールスとして、それぞれ別のクーリング・オフが8日間認められることがある。「どこで、誰から、どう誘われて契約したか」を記録しておくだけで、後から使える制度の入口が変わる。ここは覚えておいてほしい。
「回収できるまでサポートします」という言葉の実態
返金保証や「入会費用を回収するまでサポート」という言葉も、よく見かける。ただ、その約束の中身は精査に値する。消費者庁は令和7年6月、副業のサポートプラン契約について「契約金額以上の報酬を得ることができる」と説明していた事業者に対し、「消費者庁が行った調査では、副業に係る報酬において、サポートプランの契約金額を上回る報酬を得た消費者は確認できませんでした」と公表した(消費者庁「簡単な副業をうたい高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起」令和7年6月26日)。同資料は、将来の利益を断定的に伝えて契約させる行為を「断定的判断の提供」と位置づけている。消費者契約法第4条第1項第2号も、将来の変動が不確実な事項について断定的判断を提供し、それにより誤認して契約した場合は取り消せると定める。「必ず回収できる」「絶対に稼げる」という言葉そのものが、確認すべき対象になる。
巻き込まれないための確認ポイント
予防の側でやることは、体験談の温度を疑うことではない。金額と条件が、いつ・どこで・どんな形で示されるかを確かめることだ。
- 無料セミナーに登録する前に、価格・電話番号が広告やサイトのどこにも書かれていないこと自体を、判断材料に数える
- 「92%達成」「No.1」の数字を見たら、調査対象・調査方法を運営に直接たずねてみる
- 入会金だけでなく、仕入れ資金など別枠で必要な総額を、契約前に書面で確認する
- 返金保証は、適用条件(期間・提出物・審査基準)を契約前に書面で確認する
- その場では決めず、家族や利害のない第三者に一度話してから判断する
すでに契約し、支払ってしまった方へ。まず一つだけ。お金を取り戻すこと以上に、これ以上払わないことが先だ。順序はこうなる。①追加で払わない ②広告・契約書面・やり取りの記録を残す ③勧誘のされ方(電話か、対面呼び出しか)を確認しクーリング・オフの可否を調べる ④消費者ホットライン「188」に相談する。私には個別の解決はできない。判断は正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。
この記事のまとめ
- 無料セミナーを入口に、価格を伏せたまま入会金と仕入れ資金という二段の費用へ進ませるのが、この型の骨格である
- 価格非表示は特定商取引法の表示義務、No.1・達成率表示は景品表示法の優良誤認規制、断定的な回収保証は消費者契約法の断定的判断の提供と、それぞれ一次情報で照らせる
確かめるのは体験談ではなく、金額・調査方法・返金条件が契約前に書面で出てくるかどうかだ。迷えば188へ。それが一番確かだ。