第265号黒岩検閲済 2026年6月30日 発行(不定期刊/前号:6月30日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
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調査報告|架空取引所・含み益捏造の型

画面に映る“含み益”は、相手が書き換えられる数字でしかない――架空取引所型の暗号資産勧誘を、お金の流れで調べた

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黒岩警戒度

SNSの広告から「使える取引所がある」と誘われ、LINEのグループや個別のサポートに入る。案内された専用アプリを開くと、入金した額の上に“含み益”が積み上がっていく。最初の少額はすんなり出金できることもある。ところが額を増やしてから引き出そうとすると、「手数料を先に」「税金を払えば解除される」「保証金が要る」と、次々に追加入金を求められる――。特定のサービス名を挙げて「詐欺だ」と言うつもりはない。私が調べたいのは、名前を伏せても残るこの“型”を、お金の流れの側から見るとどうなるか、その一点だ。

その“利益”は、誰の手元にある数字なのか

この型でいちばん引っかかるのは、利益が「相手の用意したアプリの中だけ」に存在している点だ。入金は、こちらの本物の口座やウォレットから、相手の指定先へ本当に動く。一方で、画面に増えていく含み益は、相手のサーバーに置かれた表示にすぎない。同じ画面でも、左側(自分が払った金)は現実で、右側(増えたように見える利益)は相手が好きに書き換えられる数字だ――この非対称が、この手口の骨格だと思う。

だから「最初は本当に出金できた」という体験も、判断材料としては弱い。少額を返すのは、信用させて増額させるための呼び水になりうる。確かめるべきは、増えた残高を、いつでも・条件なしで・自分の口座へ引き出せるかどうか。そこが止まる設計になっているなら、表示がいくら派手でも意味はない。

画面の数字と、現実の送金は別物 入金は現実のお金の移動、含み益は相手が管理する表示。両者は連動しているように見えて、技術的にはいくらでも切り離せる。「増えている」ことと「引き出せる」ことは、まったく別の話だと考えておきたい。

お金の流れで見ると、入口は「広告」、出口は「ない」

整理すると、お金は〈SNS広告 → LINE・セミナー → 専用アプリへ入金 → 画面で含み益が増える → 出金しようとすると追加費用〉という一方向に流れていく。途中で増えて見えても、現金として戻ってくる経路がそもそも用意されていなければ、それは投資ではなく、ただの送金だ。この出口の形は、相談現場でも繰り返し記録されている。国民生活センターは、SNSで勧誘される暗号資産の投資話について、「最初は利益が出ているかのように見えたが、出金しようとすると、手数料・税金等の名目で追加入金を求められて出金できない」という手口を挙げ、被害回復は困難だと注意を促している(2025年)。マッチングアプリ等で知り合った相手に勧められた投資サイトでも、出金前に「手数料」「税金」と称して追加入金を求められ、入金しても出金できない事例が解説されている(2022年)。

規模も小さくない。警察庁は、SNS型投資・ロマンス詐欺のうち投資詐欺の認知件数・被害額が前年から大きく増えていると公表している(令和7年・暫定値、2026年公表)。金融庁も、無登録業者などとの取引について「出金を拒否される」「法外な出金手数料を請求される」リスクを挙げる。つまり「出金の段で費用を求められる」のは、特定の一社の事故ではなく、この型に共通して観測される出口の形だということだ。

確かめやすいのは「登録の有無」と「引き出せるか」

派手な画面や“実績スクショ”は、こちらから裏が取れない。だから私は、検証できるものだけを見るようにしている。そもそも金融庁は、SNSで知り合った相手からの暗号資産・FX投資の勧誘は、無登録の違法業者や詐欺のおそれがあると注意を呼びかけている(2023年)。暗号資産の交換・売買を業として行うには日本では登録が必要で、金融庁は暗号資産交換業者の登録制度を案内している。FX・投資助言・運用の側も登録が要り、無登録で金融商品取引業を行う者の名称も公表されている。勧められたサービスの運営者名が、これらの登録に見当たらないなら、それだけで距離を取る理由になる。

で、その「含み益」の出どころはどこなのか。健全な運用なら、利益は市場から生まれ、いつでも自分の口座へ戻せるはずだ。戻す段になって初めて費用が雪だるま式に増えるなら、お金の流れの向きが、最初から外向きにしか作られていない――そう疑っていい。

迷ったとき用の一言 「本当に自分の利益なら、引き出すのに追加で払う必要はない」。出金のために入金を求められた時点で、その残高は自分のものとして扱われていない、と考えるのが安全だ。

払う前にできる、確認の手順

気合いで見抜こうとすると疲れる。確かめられる事実だけを、順番に当てていけばいい。

  • 運営者名・会社名を控え、金融庁の登録(暗号資産交換業/金融商品取引業)に載っているかを照らす
  • 増えた残高を、条件なしでいま引き出せるかを少額で試す。「出金のために入金」が出たら止まる
  • “利益のスクショ”は自分で検証できないものとして扱い、判断の根拠にしない
  • 増額を急かされたら、その場で決めず、利害のない第三者に一度話す

この記事のまとめ

  • 入金は現実の送金、含み益は相手のサーバー上の表示。「増えている」と「引き出せる」は別物
  • 出金の段で手数料・税金・保証金を重ねるのは、この型に共通する出口の形

確かめるのは二つだけ。運営者が登録業者か、そして残高を条件なしで引き出せるか。どちらかが欠けたら、払う前に止まる。