第254号黒岩検閲済 2026年6月29日 発行(不定期刊/前号:6月29日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
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調査報告|偽取引所アプリの型

「システムエラーで出金できない」「復旧費用を払えば戻る」とうたう偽の取引所アプリの型を、お金の流れで調べた

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黒岩警戒度

「専用のアプリを入れれば、あなたの資産がリアルタイムで増えていくのが見えます」――SNSやマッチングアプリで知り合った相手に、そう案内されることがある。画面には毎日きちんと利益が積み上がっていく。ところが、いざ引き出そうとした瞬間に「システムエラーが出ています」「復旧費用を入れれば解除できます」と止められる。特定のサービスやアプリは名指ししない。私が調べたいのは、この“画面では増えるのに出金だけができない取引所アプリ”の型を、語られる宣伝ではなくお金の流れの側から見るとどうなるか、という一点だ。

なぜ「自分専用の取引所アプリ」へ誘導するのか

流れはだいたい決まっている。SNSやマッチングアプリ、投資のグループチャットで親しくなり、「いい取引所がある」とLINEや専用アプリへ誘導する。そこから先は、相手が用意したアプリの画面の中だけで話が進む。チャートも残高も、こちらに見えているのは向こうが作った数字だ。最初は少額で始められ、出金の練習として一度だけ小さく引き出させてもらえることもある。その「一度は出せた」という体験が、警戒を解く。増額や追加入金の話は、信用が育ったころにやってくる。

この型がいま増えていることは、数字にも出ている。警察庁の確定値によれば、令和7年のSNS型投資・ロマンス詐欺は認知件数15,168件・被害額1,834.3億円に上り、前年(令和6年)の認知10,237件・被害1,271.9億円から一段と増えている(警察庁・2026年)。入口がSNSやアプリで、相手の顔も会社の実体も見えない――この型は、その見えなさを土台にしている。

で、その利益の出どころは?

少し立ち止まって考えたい。アプリの画面で資産が増えているなら、その増えた分のお金は、いまどこにあるのか。本物の取引所なら、利益は市場での売買から生まれ、引き出せば自分の口座に戻ってくる。だが、相手が用意したアプリの中の数字は、誰かが入力すれば自由に書き換えられる。画面の残高は「あなたの資産がそこにある証拠」ではなく、ただの表示でしかない可能性がある。増えているのは資産ではなく、増えたように見える数字だけ――その疑いを、まず持っておきたい。

金融庁は、登録を受けていない無登録業者との取引について、これまで出金できていたにもかかわらず、ある時から出金の拒否や法外な出金手数料を請求されたり、急に連絡が取れなくなったりするトラブルが多く寄せられていると説明している(2024年更新)。出金できないのは「たまたま起きた不具合」ではなく、この型ではむしろ織り込まれた段取りだと考えたほうがいい。

「画面では増える/出金だけできない」が揃うとき 残高は順調に増えているのに、引き出そうとした途端に別の理由で止められる。この順序になっていたら、確かめられない数字を根拠にお金を入れさせ続ける型ではないか、と一度疑っておきたい。自分の資産を引き出すのに、追加で払わなければならない理屈は、本来どこにもない。

「システムエラー」「復旧費用」という、出金させないための名目

この型でつまずく場所は、毎回ほぼ同じだ。利益が出ているように見えるのに、出金の段になると次々に支払いを求められる。国民生活センターは、ロマンス投資詐欺の典型的な流れの一つとして、「出金しようとすると、さまざまな名目で送金を要求され、結局出金できない」段階を挙げている(2022年)。同じ資料の相談事例では、「所得税」「手数料」などの名目で次々に請求され、合計約4,000万円を求められたうえ、一部を払っても結局出金できなかったケースも記録されている。

名目は、税金・手数料・保証金・口座凍結の解除金など、状況に合わせて姿を変える。「システムエラーの復旧費用」も「アップグレード費用」も、要は「これを払えば出せる」と思わせて、出金の代わりにもう一度入金させるための理由づけにすぎない。これが個別の不運ではなく行政の認める典型であることは、金融庁・消費者庁・警察庁の連名資料が、暗号資産トラブルの典型事例として「出金するための追加費用を請求され、トラブルになっているケース」を挙げていることからも分かる(2021年最終更新)。

そのアプリは、登録を受けた事業者のものか

確かめられない数字に振り回される前に、こちらの手で確かめられる事実が一つある。事業者の登録だ。同じ連名資料は、海外に拠点を置く業者であっても、日本国内で暗号資産交換業や勧誘を行う場合は金融庁・財務局への登録が義務づけられている(資金決済法第63条の22)と説明している。つまり「海外の取引所だから登録は関係ない」は通らない。日本に住む人を相手にするなら、登録は必要だ。

では、勧められたアプリや業者が登録を受けているか、どう確かめるか。金融庁は登録業者の一覧を公表しているほか、警告書を出した相手を「無登録で暗号資産交換業を行う者の名称等について(国内)」として一覧化している。さらに振込先にも目を向けたい。会社名義ではなく個人名義の口座や、見慣れない海外送金先・指定アプリへの入金を求められたら、それ自体が大きな注意点になる。登録の有無と入金先の名義は、宣伝の華やかさとは無関係に、自分で調べられる数少ない事実だ。

入金・送金の前に、自分で確かめておきたいこと

気合いで見抜こうとすると疲れる。私は、いくつかの「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。一番効くのは、その場で決めないこと。「いったん持ち帰って調べます」を口ぐせにするだけで、大半は防げる。そのうえで、

  • 残高や利益が、相手の用意したアプリの画面の中だけで完結していないか(外部で裏が取れるか)
  • 勧められた業者・アプリが、金融庁の暗号資産交換業者の登録一覧に載っているか
  • 振込先が会社名義か、それとも個人名義・指定の海外アプリになっていないか
  • 出金時に「システムエラー・復旧費用・税金・保証金・解除金」など、出すためにさらに払う流れが出てきていないか
迷ったとき用の一言 「本物の取引所なら、出金のたびに別の費用を求めたりはしない」。出すために入れさせる、という流れが一度でも出てきたら、それは健全な引き出しの手順ではない。急かされても、登録の有無と入金先を確かめる時間は、必ず取っていい。

この記事のまとめ

  • 「画面では増えるのに、出金だけできない」取引所アプリは、確かめられない数字を根拠に追加入金を重ねさせる型になりがち
  • 確かめるのは画面の残高ではなく、金融庁の登録一覧の有無・振込先の名義・出金時に別費用が出てこないか

暗号資産は送ってしまうと取り戻すのが難しく、画面の数字がどれだけ増えていても、出金できなければ資産があるとは言えない。だからこそ「入れる前」「送る前」が勝負になる。もう入金してしまった、出金できずに復旧費用や税金を求められている――そんなときは、一人で抱えず、お住まいの地域の消費生活センターへ。消費者庁は全国共通の番号として消費者ホットライン188(いやや!)を案内している。私には個別の解決はできない。判断は、正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。