SNSの“限定募集コイン”を専用アプリで持たせ、出金時に手数料を重ねて求める勧誘の型を、お金の流れで調べた
SNSやLINEで「限定募集の新しいコインがある」と声をかけられ、案内された専用アプリを入れると、画面の中で残高がするすると増えていく——。机に届いた相談を並べていると、この入口の話がいくつも重なります。特定のコイン名やアプリ名を名指しで「詐欺だ」と言うつもりはありません。ただ、名前を伏せても残るこの“型”を、お金の流れの側から一度ほどいておきます。で、その増えていく残高の出どころは、どこなのか。そこを見ます。
「限定募集の新コイン」という入口は、なぜ作られるのか
入口は決まって「限定」「今だけ」「あなただけに紹介」です。一般の取引所では買えない、上場前の新しいコインだ、と。希少さを演出されると、調べる時間より先に「乗り遅れたくない」が立ち上がります。ここで急かしてくること自体が、私は黄信号だと思っています。
金融庁は、出資の勧誘で「『必ず儲かる』『元本保証』などといった文言は、詐欺的な業者が好んで使う」と注意喚起しています。限定・確実・特別、この三点セットで急かされたら、いったん手を止める。それだけで入口の大半は越えずに済みます。
専用アプリの中で残高が増える、その仕組み
勧められるのは、たいてい「一般の取引所には出ていない専用アプリ」です。そこに入金すると、チャートが伸び、残高が増えていく。数字が動くと、人は「本物だ」と感じます。けれど、画面に表示されているのはアプリ側がそう見せている数字であって、外から検証できる残高ではありません。ここが、この型のいちばん肝になる部分です。
こうした専用アプリの多くは、国内で正規に登録された業者のものではありません。海外拠点をうたっていても、日本国内の人に向けて暗号資産の交換業を行うには登録が必要(資金決済法第63条の22)だと、金融庁・消費者庁・警察庁の3者が連名で示しています。無登録の相手の画面で残高が増えても、それは「増えた」ことの証明にはなりません。
出金しようとすると、手数料が次々に積み上がる
そして、この型がはっきり姿を見せるのが出金の場面です。利益を引き出そうとした途端、「出金手数料」「保証金」「本人確認費用」「税金の前払い」といった名目が次々に出てきて、追加の入金を求められます。払えば次の名目が現れ、終わりが来ません。国民生活センターも、暗号資産のもうけ話について「アプリ上では利益が出ているように見えていても、出金しようとすると『手数料』『税金』『保証金』などの名目で請求されるケースもみられる」と記録しています(2022年)。
金融庁も、無登録業者をめぐっては「出金しようとしても応じてもらえない、法外な手数料を要求される」といったトラブルが起きうると説明しています。出金の手前で新しい費用が出てきたら、それは利益が遠ざかる合図であって、近づく合図ではありません。「出金には税金が必要」と追加費用を重ねて請求する型とも、構造はそっくりです。
数字でほどく——「増えた残高」と「戻ったお金」は別物
整理すると、この型のお金は一方通行です。入金は実際に振り込まれ、相手の口座へ移動します。一方、増えていく残高はアプリ内の表示にとどまり、出金の段でさらに費用を求められる。つまり、お金が出ていく回数は増えても、戻ってくる回数はゼロのまま、という構造になりがちです。
被害の規模も、もう小さくありません。警察庁によると、令和7年のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は15,168件、被害額は約1,834.3億円に上ります。SNSやLINEで知り合い、専用アプリへ誘い込まれる流れは、「システムエラーで出金できない」とうたう偽の取引所アプリの型とも地続きで、決して珍しい話ではないのです。
入金の前に、確かめておきたいこと
この型は、感情を動かしてから財布を開かせます。だからこそ、自分の側に「決めない手順」を一つ持っておくのが効きます。下のどれか一つでも引っかかったら、その日は入金しない。それくらいでちょうどいいと思います。
- 「限定」「今だけ」「あなただけ」と、考える時間を削る言葉で急かされている
- 一般の取引所では扱えず、勧めてきた相手の「専用アプリ」でしか売買できない
- 業者名が、金融庁の暗号資産交換業者の登録一覧に見当たらない
- 振込先が法人ではなく、個人名義の口座になっている
- 出金しようとすると、手数料・保証金・税金など新しい費用が後から出てくる
この記事のまとめ
- 「限定募集の新コイン × 専用アプリの残高演出 × 出金時の手数料」は、ワンセットで現れやすい一つの型
- アプリ内で増える残高は表示にすぎず、引き出せて初めて自分のお金になる
- 確かめるのは名前ではなく、登録の有無・振込先の名義・出金時に増える費用
増える数字より、戻るお金を見る。出金の手前で新しい費用が出てきたら、そこがいったん止まる場所です。迷ったら、入金の前に消費者ホットライン「188(いやや)」へ。