自動売買EAを「何本もまとめて無料配布」とうたう勧誘の型を、お金の流れで調べた
「友だち追加してくれた方に、通貨ペア違いのEA(自動売買ソフト)を3本まとめて無料でお渡しします」――SNSやLINEから、そんな話が届くことがある。1本だけでなく、何本も、しかも手法や通貨ペアの違うものを一式で配る。本数が多いほど「これだけ揃えてくれるなら本気だ」と感じてしまう。特定のサービスや配布者は名指ししない。私が調べたいのは、この“EAを何本もまとめて無料で配る”型を、語られる宣伝ではなくお金の流れの側から見るとどうなるか、という一点だ。
なぜ「何本も」「まとめて」無料で配るのか
流れはだいたい決まっている。SNSの広告やマッチングアプリ、投資のグループチャットで知り合い、LINEや専用のオープンチャットへ誘導する。そこで「EUR/USD用」「ゴールド用」「平均回帰型」と、用途の違うEAを一式で無料配布する、と持ちかける。「短期で派手に増やすものではなく、長期でコツコツ」と、手堅さも添えられることが多い。受け取る側からすると、何本も揃っていること自体が安心材料に見える。だが、無料で配る相手にとって、本数を増やすことに追加の元手はほとんどかからない。コピーするだけだからだ。本数の多さは、配る側のコストではなく、受け取る側の警戒をゆるめる演出になっている。
こうした入口の多くはSNSだ。国民生活センターは、SNSをきっかけとする投資の相談が2021年度の52件から2023年度には1,629件へと約31倍に急増したと報告している(2024年)。相手の顔も、配っている会社の実体も見えない――この型は、その見えなさの上に成り立っている。
で、その利益の出どころは?
少し立ち止まって考えたい。元手のかかるものを、見ず知らずの相手に、しかも何本も無料で配る。配る側は、どこで儲けを回収するのか。タダで配って終わり、という商売は続かない。だとすれば、無料のEAそのものではなく、その先に回収の仕組みがあると考えるのが自然だ。よくあるのは、EAを動かすために「この海外業者で口座を開いてください」と指定し、その口座開設や入金、取引の手数料から配布者に報酬が入る形だ。あるいは、無料版の次に「本物の高勝率版」「専用VPS」「有料コミュニティ」が控えていることもある。国民生活センターには、「何もしなくてももうかる」と50万円以上のFX自動売買システムの購入を勧められ、お金を失ったという相談が寄せられている(2021年)。無料で配られるツールも、こうした入口側に置かれていることがある。で、その利益の出どころは?――無料で配るほど、回収はどこか別の場所に移っている、と見ておきたい。
EAを勧める相手が、登録を受けた事業者かどうかも確かめておきたい。金融庁は、登録を受けていない無登録業者との取引について、これまで出金できていたにもかかわらず、ある時から出金の拒否や法外な出金手数料を請求されたり、急に連絡が取れなくなったりするトラブルが多く寄せられていると説明している(2023年・2024年更新)。配られたツールが立派でも、つながる先の口座が無登録の海外業者なら、増えて見える数字を引き出せるとはかぎらない。
「種類が多い=安心」という錯覚
勧誘でよく出てくるのが「3本セット」「通貨ペアごとに使い分けられる」「あなたのスタイルに合わせて選べる」といった文句だ。ただ、見せられたバックテストの成績や運用画面は、自分で確かめられないかぎり根拠としては弱い。チャートも勝率も、こちらからは裏が取れない。消費者庁は「SNSなどを通じた投資や副業といった『もうけ話』にご注意ください!」として、「投資資金の振込先に個人名義の口座を指定された場合、それは詐欺です。振り込まないでください」「SNS上で勧誘を受けた場合は、まず疑ってみるように」と促している(2024年)。本数や種類の多さではなく、入金先が会社名義か個人名義か、指定の海外口座でないか――そこが確かめるべき一点だ。
つまり、EAが1本か10本かは、本質的な安全とは関係がない。10本あっても、つながる口座が同じ一つで、そこが出金に応じなければ、結果は同じだからだ。種類の豊富さに目を奪われると、肝心の「お金がどこへ入り、どこから出るのか」が見えなくなる。
配るEAの先にある、共通の入金先
もう一つ、この型でつまずく場所が重なる。何本ものEAを受け取って動かしてみると、画面では利益が出ている。ところが、いざ出金しようとすると「税金を先に払え」「保証金が必要」「手数料を入れれば解除できる」と、出金のためと称してさらに払わされる――という相談だ。国民生活センターは、出金しようとすると税金や手数料、保証金などと称して金銭を要求される構図を記録している(2022年)。本来、自分の資産を引き出すのに、追加で払わなければならない理屈はない。
被害の規模も小さくない。警察庁の暫定値によれば、SNS型投資詐欺の被害は認知件数9,538件・被害額1,274.7億円に上る(令和7年・暫定値)。何本EAを持っていても、入金してしまったお金を取り戻すのは難しい。だからこそ、ツールの本数を数えているうちではなく、「口座を開く前」「入金する前」に立ち止まれるかどうかが分かれ目になる。
受け取る前に、自分で確かめておきたいこと
気合いで見抜こうとすると疲れる。私は、いくつかの「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。一番効くのは、その場で決めないこと。「いったん持ち帰って調べます」を口ぐせにするだけで、大半は防げる。そのうえで、
- 「何本も無料」「通貨ペアごとに使い分け」など、本数や種類の多さを安心材料にしていないか
- EAを動かすために指定された業者・口座が、金融庁の登録一覧に載っているか
- 入金先が会社名義か、それとも個人名義・指定の海外口座になっていないか
- 無料版の先に「高勝率版」「専用VPS」「有料コミュニティ」など、後から払う流れが控えていないか
- 出金時に「税金・保証金・手数料」など、出すためにさらに払う話が出てきていないか
この記事のまとめ
- 「EAを何本もまとめて無料配布」は、本数の多さで判断をゆるめ、回収を別の場所に移す型になりがち
- 確かめるのは付いてくるツールの数ではなく、指定口座が金融庁の登録一覧にあるか・入金先の名義・出金時に別費用が出てこないか
EAが何本あっても、つながる口座が一つで、そこから引き出せなければ資産があるとは言えない。だからこそ「口座を開く前・入金する前」が勝負になる。もう受け取って入金してしまった、出金できずに追加費用を求められている――そんなときは、一人で抱えず、お住まいの地域の消費生活センターへ。消費者庁は全国共通の番号として消費者ホットライン188(いやや!)を案内している。私には個別の解決はできない。判断は、正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。