第245号黒岩検閲済 2026年6月28日 発行(不定期刊/前号:6月28日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
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調査報告|FIRE日記→自動売買EAの型

「FIRE達成日記」で親近感を積むブログが、自動売買EAへ橋渡しする型を、お金の流れで調べた

公開 最終更新 読了 約6分
黒岩警戒度

「FIREを目指して〇〇日目。今日は健康管理について書きます」――投資の話はほとんど出てこない、節約や運動や睡眠の日記が、毎日のように更新されているブログがある。読んでいるぶんには害がない。むしろ、まっとうな生活の知恵だ。だが私が気にするのは、その親しみやすい日記の連載が、どこへ橋を架けているのかという一点である。特定の発信者やツールは名指しせず、この“生活密着の日記で親近感を積む”型を、語られる物語ではなく、お金の流れの側から調べた。

なぜ「投資と関係ない日記」から入るのか

入口で投資の話をしないのには、理由があると私は見ている。いきなり「儲かる仕組みがある」と言えば、読者は身構える。だが「FIREを目指す普通の人の、健康や節約の日々」なら、警戒のしようがない。毎日読むうちに「この人は地に足がついている」「誠実そうだ」という印象が静かに積み上がる。つまり、最初に売られているのは投資ではなく、書き手への信頼のほうだ。

そして連載が何十日と続いたあるとき、流れの中にこう差し込まれる。「資産形成に集中するため、自動売買のEAを導入しました」。健康管理の話と同じ口調で、同じ温度で、専用の自動売買ツールが登場する。つまり、ここまでの日常の積み重ねは、この一言を自然に受け取らせるための助走だった――そう読むこともできる。

数字でほどく:日記の無害さと、誘導先の落差

日記そのものは無害だ。問題は、その先で動くお金の桁が、日記の素朴さとまるで釣り合わないことにある。SNSやブログをきっかけにした金融商品の勧誘トラブルは、急に増えている。国民生活センターによれば、こうした相談は2021年度の52件から2023年度には1,629件へと急増し、いったん振り込んでしまうと被害回復が難しいという(国民生活センター・2024年)。同じ資料では、平均の契約購入金額も数百万円規模で推移している。健康日記の延長で渡された一手が、後でその桁の入金につながりうる、という落差をまず見てほしい。

要するに、親しみやすさの量と、動くお金の量は、別々に測ったほうがいい。「いい人そうだから大丈夫」は、金額の検証を一度も通っていない判断にすぎない。

親近感は、検証の代わりにならない 毎日読んで好感を持つことと、その人が勧める金融商品が安全かどうかは、まったく別の問題である。日記で測れるのは人柄の印象だけで、業者の登録や入金先の安全性は一文字も確かめられていない。

「入れて放置で稼げる」は、金融庁が名指しする誘い文句

日記の先で登場する自動売買EAには、決まった売り文句がついてくる。「入れて放置するだけ」「なにもしなくても自動で増える」。耳に心地よいが、この言い回しそのものを、金融庁は注意の対象として挙げている。金融庁は「自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる」などと言ってFX等への投資を一方的に勧めるケースに注意するよう呼びかけている(金融庁)。つまり、これは黒岩の主観ではなく、公的機関がすでに型として警告している入口だということだ。

で、その利益の出どころは? ツールを入れただけで相場から利益が湧くわけではない。誰かが負け、誰かが手数料を払い、その一部がどこかへ流れて、はじめて「儲け」と呼ばれる金が生まれる。自動という言葉は、その出どころを見えなくするための霧にもなりうる。

その口座は、どこの業者のものか

自動売買EAは、たいてい「この業者で口座を開いてください」という指定とセットになっている。ここで一度立ち止まってほしいのは、その指定先が日本で登録を受けた業者かどうかである。金融庁は日本で登録を受けずに金融商品取引業を行うことは違法であり、無登録の海外所在業者は実態の把握が難しく、トラブルが生じても業者への追及は極めて困難だとしている(金融庁)。橋を渡った先が無登録の海外業者だった場合、出金できなくなっても、取り戻す手立てはほとんど残らない。

確かめ方は難しくない。取引する前に、その業者が登録を受けているかを金融庁のページで照合するだけだ。日記の何十日ぶんの親しみより、この一回の照合のほうが、よほどあなたを守る。

橋を渡る前に止まる場所 「指定された業者は日本で登録されているか」「入金先は会社名義か、それとも個人名義か」。この二つが確認できないうちは、たとえ何十日ぶんの好感があっても、入金まで進まないでほしい。個人名義の口座を指定された時点で、それ自体が強い警告だと考えていい。

「必ず儲かる」は、言ってはいけない言葉

日記の発信者が、どこかで「このEAなら負けない」「元本は守られる」と書いていたら、そこは赤鉛筆を入れる場所だ。将来の変動が不確実なものを「確実だ」と告げる説明は、断定的判断の提供にあたる。消費者庁は将来値上がりすることが確実でない金融商品を「確実に値上がりする」と説明して契約させた場合、断定的判断の提供として契約を取り消せると案内している(消費者庁・消費者契約法)。金融商品取引法でも、断定的判断を提供する勧誘は禁止されている。

つまり「必ず儲かる」は、信頼の証ではなく、むしろ法律が問題視する側の言葉である。親しみやすい日記の中にこの一語が混じっていたら、それまでの好印象とは切り離して受け取ってほしい。

巻き込まれないための、確認の手順

気合いで見抜こうとすると疲れる。だから私は、日記の親しみとお金の判断を、最初から別の引き出しに分けてしまうことを勧めている。具体的には、次のところで一度止まる。

  • その発信者を「いい人だ」と思っても、勧める金融商品の安全性は別に確かめる
  • 自動売買ツールに「入れて放置で稼げる」とあれば、利益の出どころを一度たどる
  • 指定された業者が日本で登録を受けているか、取引前に金融庁のページで照合する
  • 入金先が個人名義の口座なら、その場で進めない
  • 「必ず」「絶対」「元本保証」の語が出たら、好印象とは切り離して読み直す
迷ったとき用の一言 「本当に良い仕組みなら、私が業者の登録を確かめる数日を、嫌がる理由はないはず」。急かされたり、確認を面倒くさがられたりしたら、その反応自体が一つの答えだと思っている。困ったときは、ひとりで抱えず消費者ホットライン「188」に相談してほしい。

この記事のまとめ

  • 生活密着の日記は「投資の良し悪し」ではなく「書き手への信頼」を先に積み上げる助走になりうる
  • 確かめるのは人柄の物語ではなく、業者の登録の有無・入金先の名義・「必ず儲かる」の断定の有無

親しみの量と、動くお金の量は、別々に測る。日記で測れるのは前者だけだということを、橋を渡る前に思い出してほしい。