第173号黒岩検閲済 2026年6月19日 発行(不定期刊/前号:6月19日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
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調査報告|経歴の裏取り

「引退する凄腕が事業を譲る」――添えられた“経歴と提携”を自分で裏取りする型

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黒岩警戒度

「引退するので、毎月しっかり稼ぐ自分の事業をあなたに譲りたい」。そんな案内を見たという相談が、ときどき耳に入る。お金の流れや紹介報酬の仕組みは前に一度ほどいた(事業譲渡の入口を、お金と紹介報酬の流れでほどく)。今号はその一歩手前、看板に必ず添えられている「人」の部分――引退する凄腕、過去に実績、海外と共同開発といった経歴や肩書きを、お金の話に進む前に自分で確かめる手順に絞ってほどく。特定の案件は名指ししない。案件をまたいで繰り返し現れる一つの型として読んでほしい。

譲渡話は、「お金の流れ」の前に「人」を売っている

この種の案内をよく見ると、最初に立っているのは商品ではなく人物だ。「業界では知られた」「過去に実績を出した」「海外の機関と共同開発した」――こうした経歴が、その先の「だから譲る話も本物だ」を支える土台になっている。つまり経歴は飾りではなく、信用の入口そのものだ。逆に言えば、この土台が確かめられないなら、その先の利益も紹介報酬も、わざわざ見にいく必要はない。私はそう考えている。

厄介なのは、経歴が基本的に「自己申告」だという点だ。相手が示した肩書きや過去の成績は、こちらの手では裏が取りにくい。スクリーンショットで見せられた利益と同じで、見せられた経歴も、自分で確かめられないかぎり根拠としてはかなり弱い。だからこの記事は、印象で「立派そうだ/怪しそうだ」と決めるのではなく、検索とお墨付きの確認という、誰でもその場でできる照らし方を残しておきたい。

「過去に実績」を、まず検索で照らす

経歴のなかでいちばん確かめやすいのが「過去」だ。本当に実績のある人物や、本当に使われてきたツールなら、ふつうは何らかの痕跡がネット上に残っている。提供者の名前、ツールやシステムの名前、案件名――それぞれを検索窓に入れて、過去にどう語られてきたかを淡々と眺めてみてほしい。

ここで覚えておきたいのが、同じ作り手が名前を変えて再登場することがある、という型だ。以前は別のシステム名で出ていたものが、評判が悪くなったころに新しいブランド名へ載せ替えられる。だから「ツール名」だけでなく「提供者の名前」でも検索しておくと、過去の別名と、そのときのトラブルや注意喚起が見えてくることがある。逆に、これだけ「実績がある」と言いながら検索しても痕跡がほとんど出てこないなら、その「実績」が何を指しているのかを、一度立ち止まって考えていい。

「海外と共同開発」「登録済み」を、出どころで確かめる

権威づけの言葉も、確かめられる形になっているかどうかで見分けがつく。たとえば「海外の機関と共同開発」が事実なら、ふつうは公式の発表やニュースとして外に出ているはずだ。その一次的な出どころが示されず、本人の説明だけで完結しているなら、根拠としては弱い。「で、その経歴の出どころは?」――答えが本人の言葉しかない主張は、いったん保留にしておきたい。

もう一つ、確かめられるのが「登録」だ。日本の居住者を相手に株やFX、暗号資産の取引・助言を業として行う者は、法律にもとづく登録が要る。金融庁は無登録での金融商品取引業は違法であり、無登録業者は投資者保護の態勢が当局では確認できず、出金拒否や連絡途絶といった高リスクのトラブルにつながりやすいと注意し、登録業者を検索できる一覧も公表している。肩書きが立派かどうかではなく、運用元や販売元の名称を、その一覧で自分の手で照らす。これがいちばん地に足のついた確認になる。

勧誘の文句そのものにも、繰り返し現れる型がある。金融庁は「自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる」といった勧誘や、利益が出ているはずなのに出金に応じてもらえず連絡が取れなくなる事例を、注意すべき手口として挙げる。経歴がどれだけ華やかでも、添えられている約束がこの型に当てはまるなら、見るべきは経歴の華やかさのほうではない。

経歴は“自己申告”だと置いておく 相手が見せてくる経歴・実績・提携は、こちらで裏が取れないかぎり、見せられた利益のスクリーンショットと同じ重みしか持たない。国民生活センターには、「何もしなくてももうかる」とFX自動売買システムの購入を勧められ、借金をして支払ったという相談が寄せられている。立派な経歴を入口にした勧誘でも、最後に求められるのは結局「お金を払うこと」だ。

確かめてから、お金の話に進む(順序の問題)

大事なのは順序だと思っている。経歴が確かめられないうちは、その先の「毎月いくら」「紹介すればいくら」という数字に進む必要はない。土台が確認できて初めて、利益の出どころや紹介報酬の仕組みを見にいけばいい。お金の流れそのものは前号でほどいたとおりで、紹介報酬の原資が新規購入者の代金に近づく構造や、勧めた相手が損をしたときに恨まれるのが目の前のあなたになる、という点は前回の記事に譲る。

背景として、数字も淡々と置いておく。SNSをきっかけにした金融商品の相談は増えていて、国民生活センターは著名人を名乗る・つながりがあるなどと勧誘される金融商品の相談が2023年度に1,629件へ急増したと公表する。警察庁の確定値では、令和6年のSNS型投資・ロマンス詐欺は認知10,237件・被害額約1,271.9億円にのぼる。被害が小さくない以上、入口で立ち止まって確かめる手間は、けっして割に合わないものではない。

立ち止まるための、ゆるい確認

気合いで人を見抜こうとすると疲れるので、私は「いつものクセ」にしてしまうのがいいと思っている。譲渡話に「人」が立っていたら、その場で決めず、次のことを一度だけやってみてほしい。

  • 提供者の名前・ツール名・案件名で検索し、過去にどう語られてきたかを眺める
  • 「ツール名」だけでなく「提供者の名前」でも調べ、過去の別名やトラブルが出てこないか確かめる
  • 「海外と提携」「共同開発」は、本人の説明以外の一次的な発表があるかを探す
  • 運用元・販売元の名称を、金融庁の登録業者一覧で自分の手で照らす
  • 経歴が確かめられないうちは、自分が誰かに紹介する側へ回らない
迷ったとき用の一言 本当に確かな話なら、こちらが経歴を調べる時間を取ることを嫌がったりはしない。「調べてからにします」と言って渋られたら、それはそれで一つの答えだと思う。

この記事のまとめ

  • 譲渡話は、お金の流れの前に「引退する凄腕」「過去に実績」「海外と共同開発」という“人”を売っている
  • 経歴は自己申告。提供者名・ツール名の検索と、金融庁の登録一覧での確認で、自分の手で照らせる

確かめる順序は、まず人、それからお金。経歴が裏取りできないうちは、利益や紹介報酬の数字に進まなくていい。