「事業を丸ごと譲ります」という投資勧誘の入口を、お金と紹介報酬の流れでほどく
「引退することにしたので、毎月100万円を稼ぐ自分の事業をあなたに譲りたい」。そんな話の公式ページを見たという相談が、ときどき耳に入る。今号は特定の案件を名指しするのではなく、案件をまたいで繰り返し現れる一つの型として、この「事業を譲る」という入口をほどいてみたい。譲られるのは何で、お金はどこから来るのか。まずはそこからである。
「譲る」と言いながら、実際に渡されるもの
看板には「事業譲渡」「引退」「あなたに引き継ぐ」と並ぶ。だが、よく中身を読むと、譲られているのは会社でも顧客でもないことが多い。実際に手渡されるのは、ある自動売買ツール(FXのソフトなど)を「ほかの人に紹介する権利」だ。あなたが誰かに紹介し、その人がツールを買えば、あなたに紹介報酬が入る。要するに代理店やアフィリエイトと同じ仕組みになっている。
紹介して報酬を得ること自体は、健全な商売でも普通に行われている。問題は「何を紹介させられているのか」のほうだ。中身の確かめられないツールを、知人に勧める側にあなたが回る——この構図を、淡々と見ておきたい。
「自動で儲かるソフト」という看板を、まず疑う
紹介させられる中心は、たいてい「設定するだけで自動で増える」とうたう自動売買ソフトだ。金融庁は「“自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる”との勧誘」や、利益が出ているはずなのに出金に応じてもらえず業者と連絡が取れなくなる事例を、注意すべき手口として挙げている。「何もしないで増える」という言葉が出てきた時点で、まず一拍おきたい。
そもそも、本当に黙って毎月100万円が出る仕組みがあるなら、人を募って譲る理由がない。自分一人で静かに回しているはずだ。で、その利益の出どころは?──そこが説明されない話は、入口の言葉がどれだけ親切でも、いったん遠ざけておきたい。
お金の流れを、紹介報酬の側からたどる
この型のお金は、二つの方向から見ると分かりやすい。一つは「ツールが生む利益」、もう一つは「紹介で動く報酬」だ。
ツールが本当に運用益を出しているなら、利益は相場から来る。だが、それが確かめられないとき、購入者に渡る“配当”や、紹介者に渡る“報酬”の原資は、新しく買った人が払った代金になりがちだ。つまり、あとから入った人の代金を、先に入った人の取り分に回しているだけという構造に近づく。新規が止まれば、回らなくなる。これは新しく入った人の金を、先に入った人への配当に回す構造そのものである。
では、その紹介報酬は誰の財布から出ているのか。あなたが受け取る紹介料は、あなたが勧めた相手が払った代金の一部だ。相手がツールで損をすれば、結局その損の一部を、あなたが報酬として受け取っていたことになる。お金の流れを一周させると、そこに行き着く。
「無登録」かどうかは、自分の手で照らせる
相手の人柄や、見せられた実績画像は、こちらから裏が取れない。だが、その業者が国に登録しているかどうかは、自分で確かめられる数少ない事実だ。金融庁は「日本で登録を受けずに金融商品取引業……を行うことは、禁止されています(違反者は罰則の対象となります)」とし、無登録業者とのトラブルは業者への追及が極めて困難だと注意している。出どころの怪しいFXツールの紹介話は、まずこの登録の有無を照らすところから始めたい。
「紹介すれば報酬」という形そのものの危うさ
友人・知人を紹介して報酬を得る形は、それ自体が古くからトラブルの多い領域だ。消費者庁は白書のなかで「人を紹介すれば報酬を得られることばかり強調されます」「契約のきっかけは友人・知人からの誘いとなっているケースが多く」、20歳代を中心に被害が広がっていると整理している。報酬の話が前面に出て、肝心の「何を売っているのか」が後ろに隠れているなら、その時点で一度立ち止まりたい。
数字の背景にあるもの
こうした「うまい話」をきっかけにした被害は、規模としても小さくない。警察庁によれば、令和7年のSNS型投資詐欺は認知件数9,538件・被害額1,274.7億円(暫定値)に上る。件数の一つひとつに、最初は「親切な譲渡の話」「簡単に増える話」として近づかれた人がいる、と考えておきたい。
数字を出したのは、不安を煽るためではない。これだけの相談が現に積み上がっている領域なのだから、「自分だけは大丈夫」と構えずに、入口の言葉を一度疑う癖をつけてほしい、というだけのことだ。
巻き込まれないための、ゆるい行動ルール
気合いで見抜こうとすると疲れる。だから「いつものクセ」にしてしまうのがいい。譲渡・紹介・自動で増える——この三つの言葉が同時にそろったら、いったん手を止める。そのうえで、
- 「事業を譲る」と言われたら、譲られる実体が何か(権利か、ツールの紹介か)を確かめる
- 勧められた運用元が、国の登録を受けているかを自分の手で照らす
- 報酬の話が先で、売る中身の説明が後回しなら、その時点で一拍おく
- 知人に勧める前に、自分がその損を肩代わりする側に回らないか考える
この記事のまとめ
- 「事業を譲る」の多くは、正体の見えないツールを他人に紹介させる紹介報酬型で、譲られるのは事業ではなく勧誘の役割
- 配当も紹介報酬も、原資が新規の代金なら、新しく入った人の金を先の人に回す構造に近づく
- 確かめられるのは登録の有無。紹介する側に立つ前に、その損を背負う相手が自分の知人になることを思い出したい
結局のところ、その場で決めない・利益の出どころを一周たどる・登録を自分で照らす。この三つに尽きる。最終的な判断は、警察・消費生活センターなど正規の窓口に委ねてほしい。