「メールを送るだけ」「登録すれば分かる」という副業マニュアル――後払いと“返金不可”をお金の流れでほどく
「メールを送るだけで稼げる」「スマホひとつで完結」。こういう広告から入って、登録すると「詳しい仕事内容は登録後にご案内します」と言われる。そして案内されるのは、まず数千円から一万円台の「お仕事マニュアル」を買うこと――しかも後払いで、返品・返金は不可。今号はこの、中身を見せないまま入口で囲い込む型を、後払いと“返金不可”という二つの仕掛けからほどいてみた。私が引っかかったのは稼げるかどうか以前の話だ。仕事の中身を見せないのに、なぜ先に金額と支払い方法だけは決まっているのか。(黒)
なぜ仕事内容は「登録してから」なのか
この型の入口は、だいたい順番が決まっている。検索結果やSNSに「副業」の広告が出て、リンクをたどるとランキングのようなページに着く。そこからLINEの友だち登録へ誘導され、登録して初めて「マニュアルが必要です」と告げられる。仕事の中身は、最後まで具体的に説明されない。
消費者庁は、この勧誘の流れを公式文書で次のように記録している。
なぜ中身を先に見せないのか。理由は単純で、見せられないか、見せると魅力が消えるからだと私は考えている。消費者庁の消費者白書も、情報商材について「契約前に中身を確かめることができないにもかかわらず、勧誘ではもうかることばかりを強調されたり、具体的な仕組みの説明がないまま契約させられたりすることがあります」と整理している(消費者庁・令和4年版消費者白書)。中身が見えないという一点だけでも、立ち止まる理由としては十分だ。
後払いと“返金不可”という二つの仕掛け
この型で私が一番うまいと思う仕掛けが、支払い条件のほうだ。マニュアル代は一万円台のことが多い。投資の話に比べると小さく見えるので、「これくらいなら」と財布の警戒がゆるむ。そこに後払いが重なる。今すぐ現金が出ていかないぶん、「とりあえず申し込むだけ」という気持ちで手続きが進んでしまう。後払いは、その場の痛みを先送りにして「断りにくさ」を作る装置でもある。
そして返品・返金は不可。一度払うと「もう戻らないなら、せめて元を取ろう」という心理が働く。この「もったいない」が、次の段階への入口になる。少額マニュアルで囲い込んだあと、「本気で稼ぐには有料のサポートが必要」として、数十万円から、ときに百万円単位の契約を勧める例が報告されている。消費者庁の注意喚起では、こうした勧誘で「『このプランなら、月50万が当たり前になる』」といった断定的な見通しを示したうえ、「『儲けが出なければ返金保証がある』などと説明を受けたにもかかわらず、実際には返金がなされなかった」という相談が各地に寄せられている、とされる(消費者庁「簡単な副業をうたい高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起」)。返金できると言っておいて返金しない、というのが、この型の出口でくり返し起きていることだ。
で、その利益の出どころは? 仕事の成果からではない。一万円台のマニュアルと、その先の高額サポート――つまり参加した人が払うお金そのものが、利益の本体になっている。並べてみると、無料の入口・少額のマニュアル・後払い・返金不可は、すべてこの高額契約という出口へ向かう段取りに見えてくる。
数字で見る、この型の広がり
感覚の話で終わらせないために、公的な統計も置いておく。国民生活センターは、スキマ時間に稼げるとうたう副業(簡単な作業=タスクをこなす型)の相談について、こう報告している。
平均の契約金額が、1年ほどで76万円から106万円へと上がっている。「メールを送るだけ」「一万円台のマニュアル」という小さな入口の話と、最終的な被害額のあいだには、これだけの開きがある。入口の安さと、出口の重さは別物だということだ。なお、SNSやマッチングアプリ経由の勧誘そのものは、警察庁も「『手軽に稼げる副業あり』等のSNS上の広告は詐欺の可能性が高い」と整理しており、行政全体が注視している領域である(警察庁・SOS47「副業を名目とした詐欺」)。
誰が売っているのか、後払いの前に確かめる
派手な実績画面や口コミを眺める前に、私はいつも一点だけ先に確かめる。「誰が売っているのか」だ。とくに後払いは、相手が確認できないまま支払いの約束だけが先に成立してしまう。通信販売では、特定商取引法に基づく表記として、事業者名・住所・電話番号などの表示が義務づけられている。
消費者庁の通信販売ガイドは、こう述べている。「個人事業者の場合には、戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を、法人の場合には、登記簿上の名称を記載することが必要であり、通称や屋号、サイト名は認められません」「住所については現に活動している住所、電話番号については確実に連絡が取れる番号を表示する必要があります」(消費者庁・通信販売広告について)。連絡先がフリーメールしかない、電話番号がない、住所をたどっても実体が確認できない――こうした状態は、義務とされる表示が十分に果たされていない疑いがある、ということだ。
- 特定商取引法に基づく表記に、事業者名・住所・電話番号がそろっているかを、後払いを承諾する前に見る
- 「仕事内容は登録後」と中身を見せない時点で、いったん赤信号だと考える
- 少額のマニュアルを買う前に、その先に高額サポート契約がないかを確かめる
- 「後払いだから今は損しない」と思っても、申込み=契約だと意識しておく
もし登録・支払いをしてしまったら
すでに登録した、あるいは申し込んでしまった方へ。気持ちは分かるが、順序はこうなる。
- ①これ以上払わない。「追加で払えば取り戻せる」「サポートに入れば返金できる」と言われても、そこで止める
- ②やり取りや申込み画面の記録を残す(スクリーンショット・メッセージ・請求の明細)
- ③クレジットカードや後払い決済を使ったなら、カード会社・決済事業者に支払いの相談をする
- ④消費生活センターなど正規の窓口に相談する
困ったときは、消費者ホットライン「188(いやや!)」がある。消費者庁は「困ったときは、一人で悩まずに、『消費者ホットライン』188にご相談ください」と案内している。なお、自分でネットから申し込んだ通信販売は、法律上のクーリング・オフの対象外になる点には注意がいる。一方で、業者の表示や勧誘に問題があれば、返金や解約の余地が残ることもある。どちらに当たるか迷うなら、まず188へ相談してほしい。私には個別の解決はできない。判断は正規の窓口に委ねるのが、一番確かだ。
この記事のまとめ
- 「メールを送るだけ」「仕事内容は登録後」と中身を見せない入口は、登録と高額契約への段取りとして置かれていることがある
- 後払いは「断りにくさ」を、返金不可は「諦め」を作る仕掛け。お金の流れは少額マニュアル→高額サポートと段階を踏み、利益の本体は後ろにある
- 後払いを承諾する前に、特定商取引法に基づく表記で「誰が売っているか」を確かめ、中身を見せず急かす相手は持ち帰る
入口の安さと、出口の重さは別物だ。中身を見せない費用が誰の財布から出るのかを一度たどれば、たいていの入口は落ち着いて見られる。(黒)