第144号黒岩検閲済 2026年6月16日 発行(不定期刊/前号:6月16日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
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調査報告|出金トラブルの型

契約までは親切だった——出金しようとした途端に態度が変わる投資勧誘の型

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黒岩警戒度

「契約するまでは、あんなに丁寧だったのに」。被害を振り返る声には、この一文がよく出てくる。連絡はまめ、質問にもすぐ答え、不安にも寄り添ってくれた。ところが利益を引き出そうとした途端、返事が遅くなり、聞いていない条件が増え、やがて連絡そのものがつかなくなる。今号は、この「契約前は親切、出金で態度が変わる」という型を、入口の印象ではなく、お金の流れの側からほどいてみたい。

なぜ、契約前だけ親切なのか

順番で考えると分かりやすい。相手にとって大事なのは、こちらに入金させるところまでだ。だから入金までは手間を惜しまない。共感し、実績らしき画像を見せ、紹介者への信頼も借りる。別号で「無料」の入口から出口をたどったように、親切そのものが入金へ運ぶための段取りになっている、というのが私の見方だ。

だとすると、態度が変わる地点は、おおむね一つに絞られる。出金しようとしたときである。相手の目的は、預けさせて、できるだけ引き出させないことにある。要するに、入金は歓迎し、出金は引き延ばす。親切の有効期限が「契約まで」なのは、そういう設計だからだと考えている。

出金しようとすると出てくる「後出しのルール」

引き出そうとした段になって、最初に聞いていない条件が次々と出てくる。これがこの型の中心だ。警察庁はSNS型投資詐欺の手口について、利益が出たように見せたうえで「出金するために『保証金』や『税金』の支払いが必要などと言ってお金の振り込みを要求してきます」と注意を促している。出金のための入金、という妙な順序が、ここで現れる。

具体的な相談も公的記録に残っている。国民生活センターはSNSをきっかけとした投資トラブルの事例として、利益を引き出そうとしたところ「海外取引税として約160万円を振り込まないと出金できない」と言われた、という相談を紹介している。画面上の残高は増えているのに、引き出すにはさらに払えと求められる。冷静に見れば、この時点で順序がねじれている。

「出金のための入金」を求められたら 引き出すために、税金・保証金・手数料といった名目で「先に振り込め」と言われたら、そこはいったん止まってほしい。正規の取引で、利益を受け取るために利用者が別途まとまった金額を入金させられる、という形は通常とらない。後から増える条件は、それ自体が黄信号だと私は見ている。

「連絡が取れなくなる」前に、確かめられること

後出しの条件に応じても、たいてい出金はかなわない。最後は、サイトにつながらない、担当者と連絡が取れない、という地点に行き着く。金融庁は無登録業者との取引のリスクとして、「出金の拒否や法外な出金手数料を請求されたり」「急に連絡が取れなくなる」といったトラブルが報告されているとし、日本の居住者を相手に金融商品取引業を行う者は登録が必要だと明記している。連絡が取れなくなってから動くより、入金の前に一つ確かめておくほうが早い。

確かめ方は単純だ。勧められた業者が日本で登録を受けているか。金融庁が公表している無登録業者の名称等や登録業者の一覧に、自分の手で業者名を照らせばいい。あわせて、金融庁は詐欺的な投資勧誘への注意喚起のなかで「上場確実ですので、必ず儲かります! 元本も保証します!」といった勧誘を、詐欺的商法の可能性が高いものとして挙げている。「必ず」「元本保証」という言葉が出た時点で、出どころを疑っていい。

数字でほどくと、もっとはっきりする。画面の残高が「100万円の利益」と表示されていても、それを引き出すのに「税金として160万円を先に払え」と言われたら、出ていく現金のほうが多い。増えたのは画面の数字だけで、動いた現金はこちらから相手へ向かう一方、という形になる。で、その利益の出どころは?——多くの場合、運用の成果ではなく、出金のために新しく振り込ませた、その入金そのものである。

迷ったとき用の一言 本当に利益が出ているなら、利用者からさらに大金を集めなければ払い戻せない、という事態にはならない。出金のたびに新しい入金を求める仕組みは、それ自体が答えを語っている。

この型は、いま件数の多い詐欺とつながっている

こうした手口は、めずらしい話ではなくなっている。警察庁の令和7年版警察白書によれば、令和6年中のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は1万237件、被害額は約1,272億円で、前年に比べて件数・金額のいずれも著しく増加したとされている。多くがSNSの接触から始まり、信頼を育てたうえで入金させ、出金の段で引き延ばす——今号でほどいた流れと、骨格はよく重なる。だからこそ、入口の親切さではなく、出金できるかどうかを先に見ておきたい。

もし、すでに入金していたら

すでに振り込んでしまった方へ。気持ちは分かるが、まず一つだけ。取り戻すこと以上に、これ以上払わないことが先だ。「あと少し払えば出金できる」と求められても、そこで止めてほしい。順序はこうなる。

  • 追加の入金を止める(「税金」「保証金」「出金手数料」などの名目でも、まず払わない)
  • 勧誘から振込までのやり取り(SNS・LINE・画面・明細)を、消さずに記録として残す
  • 振り込んだ決済元(銀行・カード会社)に、早めに連絡して相談する
  • 警察相談専用電話 #9110、消費者ホットライン 188 など、正規の窓口に相談する

私には個別の解決はできない。最終判断は正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。

この記事のまとめ

  • 「契約前は親切、出金で態度が変わる」のは、入金まで運び、引き出させない設計だから
  • 出金のために「税金・保証金」を先に払えと言われたら止まる。入金前に業者の登録を金融庁の公表情報で一つ確かめる

見るべきは入口の丁寧さではなく、出金できるかどうか。動く現金が「自分に戻る」のか「相手へ向かう一方」なのか、その場で割り算してみる。それだけで距離は取れる。