第143号黒岩検閲済 2026年6月16日 発行(不定期刊/前号:6月16日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
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調査報告|無登録業者への誘導

「無料」で始めた副業が、知らない海外業者にたどり着く——出口から見たバイナリー勧誘の型

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黒岩警戒度

この種の勧誘は、入口がいつも柔らかい。「無料でツールを配ります」「まずは動画を見るだけ」。お金の話は最後まで出てこない。ところが話を最後までたどると、こちらが名前も聞いたことのない海外の業者に口座を作り、そこへお金を入れる、という地点にたどり着くことが多い。今号は、入口ではなく出口の側からこの型を一度ほどいてみたい。入口の優しさより、出口で誰の名義の口座にお金が向かうのか。そこを先に見ておくと、迷いにくくなる。

入口の「無料」は、たいてい出口とつながっている

段取りはおおむね決まっている。広告で「ツールを無料で配る」と告げ、LINEなどに登録させ、何本かの動画で期待と信頼を温める。ここまでは、当研究所が別号で「段取り」の型として洗ったとおりだ。今回見たいのはその先である。温まったころに電話面談が入り、数十万〜百数十万円規模の「講座」や「スクール」を勧められ、同時に「この業者で口座を作ってください」と特定の取引業者へ誘導される——ここが出口になる。

つまり「無料」は、出口で回収するための入口だ。要するに、タダで配っている部分のコストは、後ろの高額契約と、その先の取引で取り返す設計になっている。入口だけ見ると損がないように見えるのは、損が出口側に寄せてあるからだと私は見ている。

出口に出てくる「業者」を、まず一つだけ確かめる

勧められる取引が外国為替証拠金取引(FX)やバイナリーオプションのとき、注意したいのは業者の登録だ。バイナリーオプションというのは、平たく言えば「上がるか下がるか」を一定時間内に当てる取引で、当たれば配当、外れれば賭けた額を失う、という形になる。仕組み自体より先に確かめたいのは、その業者が日本の登録を受けているかどうかである。

金融庁は「バイナリーオプション取引にあたってご注意ください!」の中で、「友人やSNSを通じて『儲かる』と勧誘され、バイナリーオプション取引の分析ツール入りUSBなど高額な情報商材を購入し、勧められた海外無登録業者と取引したところ、多額の損失が発生した」といったトラブルが急増しているとし、「日本で登録を受けずに日本に居住する者に対して金融商品取引を業として行うことは禁止されています」と明記している。出口に「分析ツール」と「海外の業者」が並ぶ構図は、ここに描かれているものとよく重なる。

業者が海外にあること自体が違法、という話ではない。金融庁の「無登録の海外所在業者による勧誘にご注意ください」は、「業者の所在地が海外であっても、日本の居住者のために又は日本の居住者を相手方として金融商品取引行為を業として行う場合は、日本で金融商品取引業の登録が必要です」とし、「日本で登録を受けずに金融商品取引業を行うことは違法です。(違反者は罰則の対象となります。)」と述べている。登録の有無は金融庁が公表している無登録業者の名称等や登録業者一覧で、自分の手で照らし合わせられる。出口の業者名を一つ検索する。たったそれだけで、手前の「無料」の見え方は変わる。

出口でいちばん効く質問 勧められた業者は、日本で登録を受けているか。受けていない海外業者だと、いざ「引き出したい」というときに連絡が取れない・出金に応じない、という事態が起きやすい。入金の前に、業者名を金融庁の公表情報で照らす。これだけは先にやってほしい。

「無料→高額契約」は、相談がいちばん多い型でもある

この出口の手前にある「高額契約」のほうも、公的な記録に残っている。消費者庁の「SNSなどを通じた投資や副業といった『もうけ話』にご注意ください!」は、SNSをきっかけにした投資・副業トラブルが続いているとし、相談件数が前年に比べて大きく増えた年があったことに触れている。国民生活センターも「スキマ時間に気軽に稼げる等とうたう副業トラブル!」として、「簡単に稼げる」とうたう副業の入口から高額な契約に至る相談を紹介している。

数字でほどくと分かりやすい。仮に出口の口座へ入れる前に、講座代として100万円を払ったとする。その時点で、取引で何かを取り戻す前に、すでに100万円が売り手側へ移っている。確実に増えたのは受講者の資産ではなく、受講料を集めた側の売上だ。で、その利益の出どころは?——多くの場合、取引の成果ではなく、新しく入ってくる受講者の支払いである。そう考えると、急がせる理由も腑に落ちる。

迷ったとき用の一言 本当に「無料のツールだけで増える」なら、人を集めて高い講座を売る必要はない。黙って自分で回しているはずだ。勧誘する側が急ぐほど、こちらは立ち止まっていい。

もし、すでに口座を作って入金していたら

すでに勧められた業者へお金を入れてしまった方へ。気持ちは分かるが、まず一つだけ。取り戻すこと以上に、これ以上払わないことが先だ。「あと少し入金すれば出金できる」と求められても、そこで止めてほしい。順序はこうなる。

  • 追加の入金を止める(「出金手数料」「税金分」などの名目でも、まず払わない)
  • 広告・LINE・面談・振込のやり取りを、消さずに記録として残す
  • 振り込んだ決済元(銀行・カード会社)に、早めに連絡して相談する
  • 業者名を金融庁の公表情報で確かめ、警察・消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談する

私には個別の解決はできない。最終判断は正規の窓口に委ねてほしい。それが一番確かだ。

この記事のまとめ

  • 「無料のツール」「動画だけ」で始まる勧誘は、出口で高額契約+特定業者への口座開設につながっていることが多い
  • 出口の業者が日本で登録を受けているかを、入金前に金融庁の公表情報で一つ確かめる

入口の優しさではなく、出口で誰の口座にお金が向かうかを先に見る。確実に増えるのが「自分の資産」か「売り手の売上」か、その場で割り算してみる。それだけで距離は取れる。