「通常1万円が今だけ無料」という早期リタイア系ウェビナーが、本登録で数十万円に跳ね上がる型を、価格の見せ方で調べた
「早期リタイア」「FIRE」という言葉を掲げた無料のオンラインセミナーに出会ったことはないだろうか。今号で調べたいのは特定のセミナーや案件ではない。「通常は有料」だと示したうえで期間限定の無料化と参加特典を用意し、参加後の本登録では数十万円規模の費用へ段階を踏んで進ませる、という値付けの見せ方の型だ。中身は自動売買・暗号資産といった投資性の高いものが多いが、今号で見るのは商材の中身ではなく、価格そのものの設計である。
「今だけ無料」という値付けが、なぜ効くのか
本来は1万円程度かかるはずのセミナーが、「期間限定」「今だけ」という理由で無料になっている、という説明をよく見かける。参加するだけでギフト券のような特典が付くケースもある。「通常価格」を先に示されると、その後の無料や割引が、実際より大きな得のように感じられやすい。行動経済学ではこうした基準点の提示を「アンカリング」と呼ぶ。国民生活センターの機関誌『国民生活』2025年1月号は「有名人や権威のある肩書の人が登場する広告(中略)が、詐欺被害のきっかけになっています」と指摘している。著名人の登場と値引きの演出が重なると、警戒はいっそうゆるみやすい、と私は見ている。
で、その利益の出どころは?
無料のセミナーそのものは、あくまで入口にすぎない。今回見た型で謳われていたのは、AIによる暗号資産の自動売買で「毎月数十万円の配当を目指せる」という主張だった。だが、こうした「自動売買ソフトを使えばなにもしなくても儲かる」という勧誘について、金融庁は「日本の法令に基づく登録等がない海外のFX業者や暗号資産取引所等を利用するとしているケースが多い」と注意を呼びかけている。無登録の業者については「投資者等の保護のための態勢が確保されているか当局では確認できず」とも説明している。で、その利益の出どころは?――無料セミナーの満足度ではなく、その先で実際に運用を行う業者が、登録を受けているかどうかだ。
数字で見る、「無料」の先にある契約額
印象だけの話ではないことを、数字で見ておく。国民生活センターの集計では、著名人を名乗る・つながりを示す投資勧誘の平均契約購入額は2021年度436万円、2022年度234万円、2023年度687万円と、年度によって上下しながらも数百万円規模で推移している。相談件数自体も2021年度52件から2023年度1,629件へ約9.6倍に急増した。「無料」から始まった話が、実際にはこの規模の金額へ育っていく型があるということは、覚えておいてほしい。同資料は「投資資金の振込先に個人名義の口座を指定された場合、それは詐欺です」とも明記している。
特定商取引法が求める、最低限の「連絡先」
本登録の画面に、運営する事業者の氏名・住所・電話番号がきちんと書かれているかどうか。これは通信販売の広告について特定商取引法第11条が販売業者に表示を義務づけている事項のひとつである。消費者庁のガイドは「法人の場合には、名称、住所及び電話番号(中略)を表示する必要があります」とし、住所は「現に活動している住所」、電話番号は「確実に連絡を取れる番号」であることを求めている。この表示が欠けている、あるいは海外法人だから非公開だと説明される場合、何かあったときに連絡を取る手段がない、というだけの話だ。今回の型がどの法律区分に当たるかをここで断定するものではないが、最低限の連絡先という基本の確認だけは、誰にでもできる。
確認しておきたい3つのこと
無料のセミナー自体を疑う必要はない。確かめるべきは、その先にある本登録の条件だ。
確認1:「通常価格」の根拠は、どこで確認できるか
「通常1万円」「今だけ無料」という説明の、その通常価格自体が何を根拠にしているのかを見てほしい。根拠が示されないなら、比較のための数字ではなく、得した気分をつくるための数字にすぎない。
確認2:本登録時の金額は、参加前に明示されているか
本登録の費用が「無料相談の中でお伝えします」とされ、参加するまで金額が分からない場合、判断材料を渡されないまま話が進むことになる。金額は事前に確認しておきたい。
確認3:運営者の氏名・住所・電話番号を、自分で確かめられるか
特定商取引法に基づく表記のページを開き、代表者名・住所・電話番号が明記されているかを確認してほしい。「海外法人のため非公開」で済まされているなら、それ自体が答えになる。
この記事のまとめ
- 「通常価格→期間限定の無料化→参加特典」という値付けの見せ方は、実際より得をしたと感じさせるアンカリングの型になりやすい
- 著名人便乗の投資勧誘の平均契約購入額は2021年度436万円→2023年度687万円で推移し、相談件数は約9.6倍に急増している(国民生活センター)
確かめるのは「今だけ無料」のお得さではなく、本登録時の金額が事前に明示されているか、そして運営者の連絡先を自分で確認できるかだ。