登録者数・著書・出演実績——「経歴の厚み」がそのまま、なりすまし広告の材料に変わる型を、お金の流れで調べた
登録者数◯万人、著書◯冊、大手媒体への寄稿多数。発信者の経歴をまとめた記事を読むと、その人への信頼はたいてい増す。数字や実績が具体的なほど、素性の知れない相手ではないと感じられるからだ。ただ、今号で調べたいのは特定の発信者ではない。経歴が具体的で立派であるほど、それをそのまま転用したなりすまし広告の「本人らしさ」の材料としても精度が上がる——という、経歴紹介そのものが抱える型である。
経歴が詳しいほど、なりすましの「部品」が増える
本人の実際の登録者数、著書のタイトルや表紙画像、出演した媒体の名前。これらは公開情報であり、検索すれば誰でも確認できる。なりすまし広告を作る側からすれば、一から人物像をでっち上げる必要がない。本物の写真、本物の肩書き、本物の実績数字をそのまま組み合わせるだけで、広告の「本物らしさ」は勝手に底上げされる。
つまり、経歴紹介記事や公式プロフィールが充実していること自体は、何も悪いことではない。ただ、その充実ぶりが、なりすます側にとっての素材の豊富さと表裏一体になっている、という点は覚えておいたほうがいい。実績が地味な人より、実績が具体的で華やかな人のほうが、この材料としての使い勝手はよくなる。
で、そのなりすまし広告の利益の出どころは?
なりすまされた本人には、一円も入らない。広告を出している主体は、本人ともその所属先とも無関係な第三者である。金融庁は、SNS上の投資広告に関する情報受付窓口の設置理由として、「著名人等になりすましたものを始めとするSNS上の投資広告や投稿等による詐欺被害が数多く発生」していることを挙げている。実際の資金の流れは、広告のクリック → LINE等クローズドなチャットへの誘導 → 投資アドバイスや情報商材・コンサルティングの契約、という順で進むことが多い。本人の経歴は信用を借りるための入口にすぎず、金が流れ着く先は、本人とは無関係な契約である。で、その利益の出どころは?——この一問を、経歴を読んで感心したあとにこそ、一度立てておきたい。
数字で見る、なりすまし広告の広がり
印象だけの話ではないことを、数字で見ておく。警察庁の確定値によれば、令和7年のSNS型投資詐欺の認知件数は9,523件(前年比48.5%増)、被害額は1,288.0億円(前年比47.9%増)で、件数・被害額とも前年からさらに増えている。
金融庁は、SNS上の偽アカウント・偽広告について「著名人のアカウント・広告を装い、公式アカウントやウェブサイトで掲載されている写真を無断転載したりして本人を名乗ることもあります」と説明している。実在する本物の経歴・写真がそのまま流用される構造を、公的機関自身が認めている——今号の見立てを裏づける一文だと思う。
確認しておきたい3つのこと
経歴の「立派さ」そのものを疑う必要はない。確かめるべきは、その経歴が「どこで」語られているかである。
確認1:同じ経歴・実績の告知が、本人の公式チャンネルや公式サイトにもあるか
広告に書かれている登録者数・著書名・出演実績が本物でも、そこで案内されている投資商品や相談窓口の告知が、本人の公式チャンネルの概要欄や公式サイトに見当たらない場合がある。経歴が本物かどうかと、広告そのものが本物かどうかは、別の質問だと考えておいたほうがいい。
確認2:その経歴を持つ本人が、個別の投資商品を名指しで勧めることが、立場上自然かどうか
著書や大手媒体での実績を積んだ発信者が、特定の投資ツールや口座開設をSNS広告で名指しに勧める。それが本人の普段の発信スタンスや立場と食い違っていないか、一拍おいて考えてみてほしい。不自然さを覚えたら、その違和感は捨てないほうがいい。
確認3:経歴紹介の先が、外部のクローズドなチャットへの誘導になっていないか
経歴を読んで信頼が高まったところで、「詳しくは公式LINEで」と個別チャットへ連れ出される。プラットフォームの目が届きにくい場所へ移すこと自体が、次の段階への合図だと見ておいていい。
この記事のまとめ
- 登録者数・著書・出演実績など、経歴が具体的であるほど、なりすまし広告の「本人らしさ」の材料としての精度も上がる
- SNS型投資詐欺の認知件数は9,523件、被害額は1,288.0億円(令和7年・警察庁確定値、前年比+48.5%/+47.9%)。金融庁も実在の写真・アカウントの無断転載を手口として明示
確かめるのは、経歴の立派さではない。その経歴と広告が、本人の公式発信元でも一致して語られているかどうかだ。