第138号黒岩検閲済 2026年6月16日 発行(不定期刊/前号:6月15日発行)|投資詐欺・悪質商法の手口を調べて記録する調査報
詐欺アラート研究所詐欺アラート研究所の角印

FRAUD ALERT LAB ── 投資詐欺・悪質商法 調査報

一面縮刷版・記事一覧 > 無料体験商法
調査報告|無料体験商法

「無料体験」「無料診断」から始まる投資ツール勧誘——その利用料は、何の対価なのか

公開 最終更新 読了 約6分
黒岩警戒度

「無料体験版」「90秒で投資診断」——広告でこの手の入口をよく見かける。気軽に押せて、押した先でLINEの友だち追加に進む。そこまでは一円もかからない。ところが登録後、担当者から案内が来て、はじめて値段が出てくる。今号は、この「無料から始まり、後から高額になる」型を、お金の流れの側から洗ってみた。

どうして「無料」から始めるのか

入口を無料にすれば、間口は一気に広がる。診断や体験版なら警戒もされにくい。たくさんの人にまず手を挙げさせ、LINEという閉じた場所に移してから、一人ひとりに値段を出す——順序としてはそうなっている。値段が後から出てくるのは、たまたまではなく、設計だと私は見ている。

では、その値段は何の対価なのか。多くの場合、売られているのは「投資ツール」「自動売買システム」「サポートプラン」の利用料である。ここで一度、お金の流れを止めて考えたい。事業者にとって確実に入ってくるのは、利用者が払う利用料そのものだ。利用者の運用がうまくいったかどうかとは、切り離されている。で、その利益の出どころは?――利用者の運用益ではなく、利用者の財布だとすれば、事業者の関心が「中身」より「契約」に向くのは自然なことになる。

数字でほどく:間口の広さと、被害の大きさ

この型が軽く見えないのは、すでに被害が大きいからだ。警察庁の集計では、SNSをきっかけにした投資勧誘などの被害は、令和6年(2026年公表の確定値)で認知件数10,237件・被害額1,271.9億円にのぼる(警察庁「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」)。割ってみると、1件あたりおよそ1,200万円。無料の入口とは桁が違う。入口の手軽さと、出口の金額の落差——そこにこの型の本質がある。

金額の幅も覚えておきたい。報告される利用料は数万円から数百万円までと広く、しかも広告や特商法のページに具体額が書かれていないことが多い。値段を最後まで見せないのは、比較されると都合が悪いからではないか。私はそう疑っている。

見分け方1:価格が「後出し」になっていないか

健全な商売なら、値段は先に出す。無料で釣り、LINEに入れてから個別に値段を出す流れは、それ自体が黄信号だと考えていい。登録前に総額が分からない、人によって提示額が違うらしい——この二つが重なったら、いったん手を止めてほしい。

見分け方2:その「実績」は、自分で裏が取れるか

「初月で30万円」「95%が初月から収益」といった景気のいい数字や、利用者の顔写真つき体験談がよく添えられる。ただ、こうした画像は外からは裏が取れない。顔写真がフリー素材の使い回しだった、という例も指摘されている。見せられた数字と顔は、自分で検証できないかぎり根拠としては弱い。金融庁「詐欺的な投資勧誘等にご注意ください!」も、「必ず儲かる」と断定する勧誘文句への注意を呼びかけている。

見分け方3:登録があるか/返金できるか

日本で株やFX、暗号資産の取引業・投資助言を業として行うには、法律に基づく登録が要る。金融庁は、登録のない「無登録業者」について「投資者等の保護のための態勢が確保されているか当局では確認できず」と明記している(金融庁「無登録業者との取引は要注意!!」)。あわせて、契約前に「返金は一切なし」と規約で言い切る事業者には注意したい。この型は副業・サポートプランの装いでも現れる。消費者庁は、SNS広告を入口に高額なサポートプランを契約させる事業者への注意喚起を出している(消費者庁「簡単な副業をうたい高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起」)。

3つに共通する狙い 後出しの価格、検証できない実績、確認しづらい登録——別々に見えるが、狙いは一つだと思う。「中身を確かめる前に、契約させる」ことだ。確かめる時間を惜しまれている、調べる前に話が進む——そう感じたら、それ自体が黄信号だと考えていい。

巻き込まれないための、ゆるい行動ルール

気合いで見抜くのは疲れる。だから「いつものクセ」にしてしまうのがいい。一番効くのは、その場で決めないこと。「いったん持ち帰って調べます」を口ぐせにするだけで、後出しの値段に押し切られる場面はだいぶ減る。そのうえで、

  • 総額(初期費用+利用料+オプション)を、登録する前に文字で出してもらう
  • 見せられた実績は、自分の手で裏が取れるかどうかを基準にする
  • 事業者名で「登録」の有無を確かめる(無登録業者は金融庁が一覧で示している)
  • 「返金は一切なし」と書かれていないか、契約前に規約を読む
迷ったとき用の一言 「いい話なら、急がなくても明日も残っているはず」。本当に健全なツールなら、こちらが値段と中身を確かめる時間を取ることを嫌がったりはしない。嫌がられたら、それはそれで答えだと思う。すでに払ってしまった場合は、お金を取り戻すこと以上に、これ以上払わないことが先だ。①追加で払わない ②やり取りの記録を残す ③決済元(カード会社等)に連絡する ④消費生活センター(消費者ホットライン188)や警察に相談する、の順で動いてほしい。

この記事のまとめ

  • 「無料体験・無料診断」は間口を広げる入口で、値段はLINEに移してから後出しされやすい
  • 事業者の確実な利益は“利用料そのもの”で、利用者の運用益とは切り離されている

見分けるのは、後出しの価格・検証できない実績・登録と返金の3点。迷ったら、その場で決めない・自分で確かめる・第三者に話す。これに尽きる。