「今度ボウリング行かない?」から始まる勧誘──“友だちの誘い”の先を、お金の流れでほどく
「今度ボウリング行かない?」「いい人がいるから一度会ってみてよ」。最初の誘いに、お金やビジネスの話は出てこない。出てくるのは、しばらく会っていなかった同級生や、職場で親しくなった人からの、ごく普通の誘いだ。特定の案件を名指しはしない。案件をまたいで繰り返し現れる一つの型として、この「目的を言わない誘い」から始まる勧誘を、お金の流れでほどいてみたい。
そもそも、どういう取引なのか
会員になって商品を仕入れ、人を紹介して売る。紹介した相手がまた誰かを紹介すると、自分にも利益が入る——こうした形を、法律は「連鎖販売取引」と呼ぶ。世間でいうマルチ商法・ネットワークビジネス・MLMは、おおむねこれにあたる。消費者庁の特定商取引法ガイドは、これを「個人を販売員として勧誘し、さらにその個人に次の販売員を勧誘させるという形で、組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務の取引」と説明している(特定商取引法第33条)。
ここで一つ、言葉を分けておきたい。連鎖販売取引そのものは違法ではない。違法なのは、その入り口や勧誘のやり方に、法律で禁じられた一線を越える部分があるときだ。つまり「マルチ=即・犯罪」ではなく、「どう誘い、何を約束したか」で線が引かれる。だからこそ、誘われた側が見るべきは肩書きや雰囲気ではなく、お金の流れと、勧誘のやり方そのものになる。
入り口は、なぜ「目的を言わない誘い」なのか
最初にビジネスの話をしない理由は、はっきりしている。本題から入ると、多くの人は会う前に断るからだ。だから、まず人として会う口実をつくり、警戒がゆるんだころに本題へ移す。親しさそのものが、入り口の手段になっている。少し怖いのはその点だ。
ただ、この入り口には法律が線を引いている。消費者庁ガイドによれば、連鎖販売業を行う者は「勧誘に先立って、統括者の氏名(名称)と、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨を明示すること」が求められている(特定商取引法第34条)。さらに、勧誘目的を告げない方法で誘った相手を「公衆の出入りする場所以外の場所」で勧誘することは禁じられている。同ガイドは「公衆の出入りする場所以外」を「事業者の事務所、個人の住居、ホテルの部屋や会議室、カラオケボックス、貸し切り状態の飲食店等」と解説する。
「人を紹介すれば儲かる」を、数字でほどく
この型のいちばんの売り文句は「人を紹介すれば、あなたも儲かる」だ。ここは、印象ではなく割り算でほどける。仮に、一人が新たに三人を勧誘し、その三人がまた三人ずつ……という形で組織が広がるとする。一段下に3人、二段下に9人、三段下に27人。これを続けると、十段下で3を10回かけて約5万9千人、二十段下では約35億人になる。日本の人口はおよそ1億2千万人だから、十数段で国内の勧誘先は計算上尽きる。
つまり、上のほうで早く始めた人の利益は、後から入って必死に勧誘する人たちの負担で成り立っている。国民生活センターも、この仕組みについて「後から加入した人ほど勧誘が難しくなる」「組織は無限に拡大できない」という構造的な問題を挙げている。商品が本当に良くて、人づての紹介がなくても売れるなら、わざわざ会員に人を勧誘させる必要はない。で、その利益の出どころは——商品の販売益なのか、それとも後から入る人の入会金や仕入れなのか。そこが説明されない話には、いったん近づかないでおきたい。
数字で見える、相談の実態
件数も見ておく。国民生活センターのまとめでは、マルチ取引に関する消費生活相談は2022年度6,844件、2023年度5,154件、2024年度4,117件。件数は減っているが、なお年に四千件を超える水準が続いている。
もう一つ、目立つのが年齢だ。2023年度の全国の相談状況を見ると、マルチ取引の相談では20歳代の割合がもっとも高く、23.5%を占める。商品を持たずに「投資のノウハウ」「副業の権利」だけを売るいわゆる“モノなしマルチ”について、国民生活センターは若者を中心に広がっていると注意喚起している。学生や社会人になりたての世代が、友人や先輩からの誘いという、いちばん断りにくい経路で勧誘を受けている、ということだ。
もし誘われたら/もう契約してしまっていたら
気合いで見抜こうとすると疲れる。だから、その場で決めないことを「いつものクセ」にしてしまうのがいい。誘われた段階での確かめ方を、いくつか置いておく。
- 「会う前に、何の話かを教えてほしい」と一度聞く。目的をはぐらかされたら、それ自体が答えになる
- 「人を紹介すれば儲かる」と言われたら、商品の販売益なのか、後から入る人の入会金なのか、お金の出どころを尋ねる
- その場で契約・入会しない。「持ち帰って調べます」を口ぐせにする
- 利害のない家族や友人に、一度そのまま話してみる
すでに契約してしまった場合も、まだ打てる手はある。連鎖販売取引には、訪問販売(8日間)より長い20日間のクーリング・オフが用意されている。消費者庁ガイドは「法律で決められた書面を受け取った日(商品の引渡しの方が後である場合には、その日)から数えて20日以内であれば、書面又は電磁的記録により契約の解除(クーリング・オフ)をすることができます」としている。商品を使ってしまっていても、連鎖販売取引なら解除できるとされる点も覚えておきたい。
この記事のまとめ
- 目的を言わずに呼び出し、閉じた場所で勧誘する入り口は、特定商取引法が禁じる側に入りやすい
- 「紹介すれば儲かる」は数字でほどける。組織は十数段で勧誘先が尽き、後から入る人ほど不利になる
- 誘われたら目的と利益の出どころを聞く・その場で決めない。契約済みでも20日間はクーリング・オフできる
道具が「副業」でも「投資」でも、問いは同じだ。で、その利益の出どころは——そこが説明されない話からは、いったん離れておきたい。